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日外会誌. 82(3): 284-291, 1981


原著

直腸S状結腸エンドメトリオージス癌化の1治験例
-世界報告5例の検討-

滋賀県立成人病センター附属病院 外科
*) 滋賀県立成人病センター附属病院 放射線科
**) 滋賀県立成人病センター附属病院 消化器内科
***) 滋賀県立成人病センター 健康管理局
****) 滋賀医科大学 第2病理

山田 紀彦 , 北村 脩 , 田村 勝洋 , 小切 匡央 , 井村 寿男*) , 玉置 勉**) , 城田 貞夫***) , 天野 殖****)

(昭和55年8月7日受付)

I.内容要旨
腸管endometriosis の癌化例は極めてまれであり,欧米では4例の報告例があるが本邦ではその報告がみあたらない. 我々は最近,直腸S状結腸のendometrioid carcinoma の1例を経験し手術によつて治癒せしめ得たので報告する.
症例は44歳女性, 主訴は肛門出血で, 既往歴で6年前両側卵巣chocolate cyst(卵巣endometriosis)で,両側卵巣・子宮合併切除を行つている.注腸透視・直腸鏡検査の結果直腸S状結腸腫瘍と診断され開腹手術を行つた.腸管と骨盤周囲臓器との間に高度の癒着がみられ,剥離が困難であつたが,直腸S状結腸前方切除を行つた. 切除標本では, 腸管内に3x 3.5 x3cm の表面がぬめぬめした粘液様物質で被われた結節状・灰白色の有茎性polyp様腫瘍が存在した. この腫瘍組織はalcian blue, periodic acid shiff染色では染まらずendometrioid carcinoma の形態像を示した.腫瘍の基部のmuscularis mucosa の部分にbenign endometrial glandが存在し,その腺組織から連続して明らかにcarcinomaに移行している部分がみられた. 又所々, adenocarcinoma と共存してsquamous cell metaplasiaを示す部分がみられた(adenoacanthoma). endometrial tissueの更に下方には線維性の搬痕組織によつて囲まれた古い縫合糸の1部がみられた.以上の事実から本症例は, 6年前の卵巣子宮手術中の操作で腸管壁の1部に針糸がかかり,この時に腸管内にendometrial tissueが2次的にimplant され,後年腸管内でmalignant transformationをおこしたものと考えられた.

キーワード
結腸エンドメトリオージス, 癌化


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