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日外会誌. 82(3): 277-283, 1981


原著

大腸癌の漿膜下静脈侵襲と肝転移に関する臨床病理学的研究

三井記念病院 外科

志田 晴彦 , 久保 琢自 , 坂本 昌義 , 大谷 五良

(昭和55年9月1日受付)

I.内容要旨
大腸癌原発巣の静脈侵襲V(+)を,特に肝転移との関連について検討した.過去10年間の三井記念病院外科での大腸癌手術標本243例を, 原発巣の中心を通る2方向の切片についてElastica van Gieson染色を用いてv(+)の有無を判定し,発現部位により粘膜下smv(+)と固有筋層外漿膜下ssv(+)とに分けた.
v(+)は100例(41%)にみられ,内訳はsmv(+)のみ44例, ssv(+)56例であつた.v(+)の頻度は腫瘍部位, 組織分化度で大きな違いはないが, 壁深達度pm以上,及びリンパ節転移(+)のものの方が高い.また, ssv(+)は深達度ss以上の症例がほとんどである.
243例中肝転移(+)は59例で,同時性転移26例, 異時性転移33例であつた. 肝転移例中v(+)のものは69%,うちSSV(+)のものは53%と高い. 逆にV(+)100例中の41例,ssv(+)56例中31例(55%)が肝転移をおこしており,v(+)とくにssv(+)と肝転移は明らかに関係があつた.ただしsmv(+)のみの症例ではv(-)例との有意差は得られなかつた.
非治癒切除例も含む全例では,肝転移はリンパ節転移と関わりがあるが,絶対治癒手術例についてみると, リンパ節転移の有無と術後肝転移再発とは関係が少ない. これに対しv(+)とくにssv(+)例は高率に術後肝転移をおこしており, 術後3年経過例ではv(+)の39%,ssv(+)の63%が異時性肝転移例であった.
以上より,大腸癌原発巣の, とくに固有筋層外漿膜下層における静脈侵襲ssv(+)は肝転移と大いに関係があり,治癒手術例でもssv(+)例では, 術後化学療法の強化,肝転移再発の早期発見→肝切除等の対策が必要と思われる.

キーワード
大腸癌の肝転移, 大腸癌の脈管侵襲, 大腸癌のリンパ節転移, 肝転移の肝切除


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