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日外会誌. 82(3): 271-276, 1981


原著

心臓・血管外科手術後における輸血後肝炎の発生について

国立循環器病センター 心臓・血管外科

中島 伸之 , 藤田 毅 , 田中 一彦 , 足立 郁夫 , 岡 良積 , 曲直部 寿夫

(昭和55年3月21日受付)

I.内容要旨
輸血後肝炎の発生率は一般には一定していないが,心臓血管手術後においては,発生率は決して低くないというのが,本調査を施行した基礎的理由である.
対象症例は,昭和52年7月循環器病センター開設当初より,昭和54年6月末までの約二年間に施行された心臓血管外科手術症例のうち,輸血を施行された症例302例である. これら全症例は, 調査開始時に最低3カ月の経過観察期間を有していた. 輸血後肝炎の診断基準は,GOT又はGPT値が,術後3週以降に, 200単位以上に上昇した症例という, 厚生省輸血後肝炎調査研究班(吉利班)の診断基準に非常に近いものを設定使用した.
この基準によると,肝炎陽性症例は71例であり,全体としての発生率は, 23.5%であつた.性別または年齢別による発生率には,有意の差を認めなかつた.過去3年間の年度別による,または,手技別による発生率にも差がなかつた. 潜伏期間は,約70%の症例において1カ月より3ヵ月であり, 一度発症すると,酵素値の高い上昇と治癒の遷延化の傾向がみとめられたが(約50%の症例は治癒迄に3カ月以上要した),酵素値の変動と治癒期間には余りはつきりした相関は認められなかつた.
周知のように, 輸血後肝炎はウイルスにより伝播されると理解されるので, 輸血量および血漿輸液量と相関があるだろうと考えた. われわれの成績では, 21単位以上の輸血量 (p=0.05) および6単位以上の凍結血漿輸液量 (p<0.005)で統計上有意の差がみとめられた.特に血漿輸液量と強い相関関係がみとめられたことは,将来発生率を低下さすための努力の一方向を示唆していよう.なお諸家の成績と一致してHBs抗原は, 90%以上の症例において陰性であり, いわゆる非A, 非B型ウイルスによる発症が大多数であることを示唆している.

キーワード
輸血後肝炎, 凍結血漿輸液

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