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日外会誌. 81(10): 1315-1331, 1980


原著

体外胆汁誘導術の副腎および卵巣におけるステロイドホルモン産生に及ぼず影響

金沢大学 第2外科学教室(主任:宮崎逸夫教授)
金沢医科大学 第2外科学教室(主任:小坂 進教授)

黒田 吉隆

(昭和54年11月14日受付)

I.内容要旨
体外胆汁誘導術のより詳細な病態生理を明らかにするため,ステロイドホルモン産生組織である副腎及び卵巣への本術式の影響について,雌雑種成犬を用い, 血液化学,組織化学的な検索を行なつた.
外胆汁瘻後の肝機能,血液電解質は, 8週間の期間内では略正常範囲内にとどまつた.一方,実験犬の73%は外胆汁瘻設置後2週以降より, rapid ACTH test値が,前値で52%, 30分値で51%, 60分値で47%と術前に比し1/2近くにまで低下した.この様にACTH 刺激に対して低反応を示した群の副腎脂質組成は,free cholesterol で38%, triglycerideで36%, cholesterol esterで35%とcontrol群に比し1/3近い低値をとり,またACTH 刺激に対して正常値を示した群でも, free cholesterolは61%, triglyceride は32%, cholesterol esterは74%まで低下した.また,外胆汁瘻犬の副腎cholesterol ester 脂肪酸組成比についてみると, oleic acid, arachidonic acid の軽度低下とadrenic acid の有意の上昇が認められた.一方,外胆汁瘻後の卵巣free cholesterol は27%,cholesterol esterは7%にまで低下した.
以上の実験成績から, 外胆汁瘻造設によつて7割近い実験犬に副腎皮質機能低下が招来されると同時に,慢性的なACTH刺激によると思われる副腎cholesterol の著明な低下に伴ない,cholesterol ester構成脂肪酸の中でも水解されやすいadrenic acid の増加が出現して副腎皮質機能の恒常性維持が計られている可能性を示唆させた. 一方, 卵巣cholesterol量の低下はestrogenの腸肝循環遮断によるestrogenの大量廃棄がおこり,引き続いて卵巣機能低下に至らしめる可能性の存在を示唆させた.
日常,我々外科医が外胆汁瘻の造設あるいは高度黄疸例に対し二期的手術を施行する際,副腎皮質機能が低下状態にある事を充分考慮に入れ, 患者の管理に対処して行かなければならない一方, 乳癌患者のcastration therapyへの応用についても今後に期待がもたれるものと考えている.

キーワード
外胆汁瘻, コレステロール, 副腎皮質機能, 副腎脂質, 卵巣脂質

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