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日外会誌. 81(6): 494-504, 1980


原著

胃癌術後の併用化学療法
-基礎的臨床的検討-

慶応義塾大学 医学部外科学教室(阿部令彦教授)

文 鏞炛

(昭和54年9月10日受付)

I.内容要旨
ヌードマウス可移植性のヒト消化管原発腺癌(St-4,St-15, Co-3)を用いて, Mitomycin-C (MMC)とFT-207の実験的併用化学療法をおこなつた.治療は腫瘍移植後24時問目に開始し, MMCは週1回,FT-207は連日腹腔内に投与した. 効果判定には, ① 腫瘍の増殖曲線,② 腫瘍重量, ③ 腫瘍の組織像を用いた.両薬剤の単独投与に対して各腫瘍はDose Responseを示し,MMCの最小有効量はSt-4;2 mg/kg, St-15 ; 0.2 mg/kg, Co-3 ; 1 mg/kgであり, FT-207の最小有効量はSt-15; 60 mg/kg, Co-3 ; 90mg/kgでSt-4は最大耐量の90mg/kgでも無効であつた.両薬剤の最小有効量の1/2量をくみあわせて同時投与をおこなつたところ,St-4では相乗効果,Stー15,Co-3では相加効果がみられ,いずれの腫瘍に対しても併用投与が単独投与よりも有効であつた.
この基礎的成績の臨床応用として,胃癌術後の補助化学療法にMMC とFT-207をとりあげ, prospective randomized trialをおこなつた.対象は1975年5月より1976年11月までの19カ月間に当教室でおこなわれた59例の胃癌切除例を用いた.封筒法により単独群(MMC術当日20mg,翌日10mg投与)と併用群(MMC+術後4 週目よりFT-207 連日600 ~800 mg投与)にわけ,両群の3年生存率及び副作用を比較検討した.両群の背景因子は宿主側・腫瘍側・薬剤側において有意の差はなかつた.両群の累積3年生存率は単独群65.5% , 併用群85.0% と併用群の生存率が高い傾向にあり, 特に未分化型・INFγ・大きさ6cm以上の例で3年生存率は有意の差をもつて併用群が高かつた.副作用では併用群で下痢がやや多く,白血球減少の回復がやや遅い傾向がみられたほかは,両群の間で有意の差は認められなかつた.以上の成績より,MMCとFT-207の併用は進行した胃癌術後の補助化学療法に有効と考えられ, ヌードマウス可移植性ヒト癌を用いた治療実験系の有用性が示された.

キーワード
ヌードマウス, 可移植性ヒト癌, 胃癌術後化学療法, 併用化学療法, 術後生存率


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