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日外会誌. 81(3): 281-290, 1980


原著

消化管吻合創治癒におよぼす栄養投与の影響に関する研究

千葉大学 医学部第1外科(指導教官:伊藤健次郎教授)

宮原 弘次

(昭和54年9月6日受付)

I.内容要旨
栄養不良状態は消化管吻合部治癒機転を妨げ縫合不全の要因となりうるとして術後栄養投与の必要性の根拠となっている.一方創治癒機転は絶食下でも体組織の犠牲の下に順調に営なまれるともされている.そこで臨床例でしばしば見られるカロリー,蛋白両者の摂取不良のモデルとして完全絶食下の成犬(7~10kg)を用い実験を行った.
方法:回腸末端より10cm肛門側にて結腸を離断した後Gambee法にて端々吻合し, 1週後sacrifice し諸検査を行つた.栄捉投与法により次の各群にわけた. I群:術前経口投与,術後絶食をI群A, 術後経口投与をI群B• II群: 2週間絶食後手術,術後絶食, IlI群: 3週間絶食し手術後絶食をIlI群A, 手術後T.P.N.(100cal/kg, アミノ酸2.5g/kg)施行例をIlI群B, T.P.N (50cal/kg,アミノ酸1.25g/kg)施行をIII群C, 3週間絶食後1週T.P.N(100cal/kg, アミノ酸2.5g/kg)施行後手術し以後絶食群をIlI群Dとした.吻合部の耐圧試験, Hydroxyproline最血清蛋白およびアルブミン値,一部に循環血液量,循環アルブミン量を測定し吻合部を組織学的に検討した.
成績: I群AとBでは耐圧試験に差が見られない. II群では耐圧試験が有意に低下しない.III群Aでは耐圧試験は対照の3/4に減少し(p<0.01)1/3が死亡した. IlI群Bでは循環アルブミン量,吻合部Hydroxyproline 量が増加し,耐圧試験を正常化し手術死が低下した. IlI群Dでは更に死亡例が0となる.以上の成績は術後T.P.N施行は一定の限度を越えた低栄義状態における消化管吻合創治癒機転を正常化し,手術死を低下させること.術前T.P.N施行は更に有利な状態をもたらすことを示し,消化管手術前後のT.P.N臨床応用の有効性を示唆している.

キーワード
高カロリー輸液, 低栄養状態, 創治癒, 循環アルブミン量, collagen


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