日外会誌. 41(12): 1534-1574, 1941

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その他

血管撮影法ノ生理ニ關ススル臨牀的竝ニ實驗的硏究

I．内容要旨
近時血管撮影法ハ著シク發逹シ，本邦ニ於テハ夙ニ齋藤敎授ガ此ノ方面ノ研究ニ着手サレ，新血管造影劑「ロンブル 」ヲ創製シ多數業績ノ發表ヲ見タリ.
余ハ諸種造影劑血管内注入時ニ於ケル生理ノ研究ヲ企圖シ，臨牀的竝ニ實驗的ニ血壓，呼吸，脈搏及ビ「エレクトロカルヂオグラム」等ノ變化ヲ觀察シ興味アル結果ヲ得タリ．
家兎ニ溶液性造影劑ヲ動脈内ニ注入スルニ瞬問的血壓下降ニ次イデ一時的血壓上昇ヲ來スモ，數分後ニハ注入前ノ血壓ニ復歸ス．呼吸ハ瞬間停止シ或ハ一時增強スルモ間モナク正常トナル，之等ノ變化ハ恰モ對照的ニ施行セル濃厚ナル食鹽或ハ葡萄糖溶液ヲ動脈内ニ注入セル際ノ變化ト一致ス．斯ル變化ハ注入サレタル高張溶液ノ滲透壓的剌戟ニヨル頸動脈竇反射乃至大動脈反射ナラン．更ニ同濃度ノ「スギウロン」，「プロキロ」1粍ヲ總頸動脈，股動脈，腹部大動脈等ニ注入セル場合ヲ比較スルニ血壓及呼吸ノ變化ノ總頸動脈注入時ニ最モ著明ニシテ腹部大動脈内注入之ニ次ギ股動脈内注入時最モ輕度ナリ．即チ頸動脈竇反射ノ大動脈反射ヨリ強大ナルヲ知ル. 而シテ可溶性造影劑ノ之等ノ作月ハ「アプロジール」, 「スギウロン」ニ於テ輕シ．
次ニ非溶液性造影劑ヲ動脈内ニ注入スルニ以上ノ變化ハ極メテ輕度ナルガ，或ハ全ク變化ヲ認メズ，恰モ對照實驗ニ觀タル血液卜等張ナル生理的食鹽水注入時ノ變化ト一致ス．即チ非溶液性造影劑ハ動脈ニ對シ認ムベキ刺戟ヲ與ヘザルモノト思惟ス，而シテ「トロトラス卜」ハ「ロンプル」ニ比シ注入時ノ作用比較的輕度ナリ．
大動脈内注入實驗ニ於テハ濃厚ナル 溶液性造影劑ヲ用ヒタルニ血壓及呼吸ノ雙化ハー時的ナルモ著明ナリ．コノ變化ハ注入溶液ノ沃度含有量ニ應ジテ相違シ，120%「ヨードナトリウム」液ニ於テハ其ノ雙化量モ著シク「スギウロン」最モ輕度ナリ．即チ大動脈撮影ニハ濃厚溶液ヲ單獨ニ使用スルヨリモ寧ロ「スギウロン」等ヲ以テ適宜混合稀繹シテ使用スルヲ可トス．
造影劑ヲ靜脈内ニ注入セル場合溶液性造影劑ニ於テハ注入後間モナク血壓下降シ，次デ上昇ヲ來スハ動脈内注入時卜略ゝ同様ナリ．呼吸モ瞬問的停止ヲ來ス力或ハ一時的ノ增強ヲ來ス之等ノ變化モ沃度含有濃度ニ比例スルモノノ如ク「スギウロン」最モ輕度ナリ．
靜脈内注入時卜動脈内注入時トヲ比較スレバ溶液性ナル卜非溶液性造影劑ナルトヲ問ハズ，前者ハ後者ヨリモソノ變化著明ナリ.
以上ノ動物實驗ノ結果ヨリ各種血管造影劑ヲ比較スルトキ「トロトラスト」ハ動靜脈何レニモ適スル最モ優秀ナルモノニシテ「ロンブル」ハ動脈撮影用トシテ「スギウロン」ハ靜脈撮影用トシテ優秀ナリ．
更ニ臨牀的ニ「トロトラスト」ヲ用ヒテ血管撮影法ヲ施行シ患者ノ血壓，脈搏，呼吸及ビ電氣心働圖等ニ及ボス影響ヲ觀察シ實驗的研究ト相似タル次ノ結果ヲ術タリ．即チ動脈及ビ靜脈注入時ニハ一時的ニ血壓ノ上昇及ビ脈搏數ノ增加ヲ來スモノ多キモ輕度ナリ．呼吸ハ輕度增加或ハ減少スルモノ相半バス．臨牀例ニ於テ實驗例ヨリ變化ノ輕度ナリシハ體重ノ1瓩ニ就キ使用量ノ少キニヨル.
叉濃厚ナル溶液性造影劑大動脈内注入時ノ電氣心働圖ハ何等認ムベキ變化ナカリキ．
之ヲ要スルニ造影劑ノ動脈及ビ靜脈注入法ハ血壓，脈搏，呼吸及ビ電氣心働圖等ノ點ヨリ觀察スルモ人體ニ大ナル障碍ヲ與ヘザルモノト認ム．

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