日外会誌. 36(2): 1353-1388, 1935

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その他

腹腔内細菌ノ血行内移行竝ニ之レニ及ボス諸種ノ影響ニ就テ

I．内容要旨
腹腔内ニ注入セラレタル異物ノ吸収セラレテ血行内ニ移行スルコトハ旣ニ多クノ學者ニヨリテ認メラレタル所ナリ．
余ハ腹腔内ニ注入セラレタル細菌ノ血行内移行狀態竝ニ血行内細菌ノ消長ニ及ボス諸種ノ影響ニ就キキ報告セントス．
實驗方法トシテハ，家兎4-6匹ヲ以テ一群トナシ，大腸菌ノ「ブイヨン」24時間培養ヲ家兎ノ腹腔内へ毎瓩0.5竓注入シ、然ル後15分，30分，以後30分毎ニ露出セル頸靜脈ヨリ1.0竓宛採血シ，之レヲ寒天ニ混ジテ平板培養トナシ，發生セル集落ヲバ肉眼的ニ計算シ，以テ血行内ニ於ケル細菌ノ消長ヲ見ル標示トナセリ．此ノ如クシテ5-8時間ニ亙ツテ血行内ニ入レル細菌ノ消長ヲ檢セリ．其ノ結果次ノ如シ．
1. 正常家兎ニ於テハ菌注入後15分ニシテ旣ニ多數ノ細菌ヲ證明シ，2-3時間ニシテ最高ニ逹シ，其ノ後次第ニ減少シ，6時間後ニ至リテ再ビ増加シ，家兎ハ24時間内ニ死亡セリ．
2. 免疫家兎（大腸菌「ソクチン」靜脈内注射，凝集反應2000-5000倍陽性)ニ於テハ流血中ヨリノ細菌證明ハ極メテ少ナク，5時間以後ニハ最早菌ヲ證明スルコト能ハズ．抵抗極メテ強シ．
3. 「トロトラス卜」ヲ靜脈内ニ注射シ，全網狀内被細胞系統ノ填充ヲ行ヒタル家兎ニ於テハ流血中ノ細菌數ハ極メテ急速ニ増加シ，2-3時間ニシテ細菌ノ吸収極メテ多ク集落數ノ計算不能ナリ，動物ハ抵抗弱ク，何レモ死亡セリ．
4. 「トロトラス卜」ヲ腹腔内ニ注射シ，腹腔ヲ刺戟シ，腹腔所屬淋巴系統ヲ塡充シタル家兎ニ於テハ腹腔ヨリ細菌ノ血行内へ移行セル數ハ一般ニ非常ニ少ナシ．是レ腹腔ヲ刺戟シ，或ハ吸収路ヲ閉鎖シテ其ノ吸牧ヲ阻止シ，且ツ細菌ヲ撲滅スル能力ヲ増進セルタメナルベシ．
次ニ血行内細菌數ノ最高ニ逹スル以前卽チ菌注入後1-1.5時間内ニ諸種ノ藥液ヲ腹腔内或ハ靜脈内ニ注入シタル場合，血行内細菌ノ消長ニ及ボス影響ハ次ノ如シ．
(A)腹腔内注入ノ場合．
5. 10％葡萄糖液（毎瓩7.0竓），「エーテル」（毎瓩0.5竓）等ヲ注入セル場合ハ，注入後菌ハ一時減少スレ共再ビ非常ナル勢ヲ以テ増加シ，動物ハ何レモ死亡ス．
6. 「アンチヴイルス」（毎瓩2.0竓），5％食鹽水(毎瓩7.0竓），人工胃液（毎瓩7.0竓）ヲ注入後ハ一時非常ニ血行内ノ細菌ハ減少シ，後再ビ著明ニ増加スレ共，4時間以後ニ至リテ又著シキ減少ヲ示シ，生死殆ンド相半ス．
7. 免疫血淸（凝集價2000-3000，毎瓩7.0竓），ベーリング製腹膜炎血淸（毎瓩3.0竓），同種血淸，馬血淸．0.1％「トリパフラビン」（各毎瓩7.0竓）ヲ注入後ハ血行内細菌ハ次第ニ減少シ，死亡例モ甚ダ少シ．
8. 免疫輸血，輸血，（各毎瓩7.0竓)ハ其ノ効果甚ダ著明ニシテ注入後ハ極メテ著明ナル菌ノ減少ヲ示シ，就中免疫血液ヲ輪血セル場合ハ其ノ効果著シク，死亡例ナシ．
(B)靜脈内注入ノ場合．
9. 0.5％「トリパフラビン」（毎瓩1.0竓）注入後モ菌ノ減少ヲ認メズ．
10. ベーリング製腹膜炎血淸ノ注入ハ有効ニシテ血行内細菌數ヲ減少ス．
11. 輪血及ビ免疫輪血，共ニ甚ダ有効ニシテ血行内ニ移行セル細菌ハ急速ニ減少ス．免疫輪血ニ於テ最モ著シキ細菌ノ減少ヲ示シ，死亡例ナシ．
結論
1. 腹腔ヨリ血行内ヘノ細菌ノ移行ハ旣ニ15分ニシテ著明ニ現ハレ，2-3時間ニシテ最高ニ逹シ，後次第ニ減少シ，6時間後ニ至リテ再ビ増加ス．然レ共コノ移行細菌數ハ各個體ニヨリテ甚ダシキ相違アリ．
1. 免疫家兎及ビ前ニ腹腔内へ「トロトラス卜」ヲ注入セル家兎ニ於テハ，腹腔内菌ノ血行内移行ハ著明ナラズ．特ニ免疫家兎ニ於テハ證明セル菌數ハ極メテ少シ．
1．「トロトラスト」ヲ靜脈内ニ注射シ，全網狀内被細胞系統ノ塡充ヲ行ヒタル家兎ニ於テハ腹腔内注入細菌ノ血行内移行ハ極メテ著シク，動物ノ抵抗甚ダ弱シ．
1． 「エーテル」，葡萄糖液ノ腹腔内注入後ハ却ツテ細菌ノ血行内移行數ヲ増加ス，然ルニ食鹽水，人工胃液，「アンチヴイルス」，血淸, 「トリパフラビン」等ノ注入後ハ細菌ノ血行内移行度ヲ減少ス．就中「トリパフラビン」，血淸，免疫血清ハ其ノ減少度著シ．
1. 急性化膿性腹膜炎手術時ノ腹腔洗滌液トシテ0.1％「トリパフラビン」溶液，食鹽水，血淸，免疫血淸，「アンチヴイルス」等良好ナリ．尚「アンチヴイルス」ハ腹膜炎ノ豫防的効果大ナリ．
1．輸血及ビ免疫輸血ハ靜脈内，腹腔内共ニ其ノ効果顯著ニシテ，且ツ確實ナリ．血行内細菌ハ著シク減少ス．
1. 免疫輪血ハ最モ卓越セル効果ヲ顯スモノニシテ，急性化膿性腹膜炎ノ治療，更ニ進ンデハ全身感染症ノ治療ニ卓効ヲ奏スルモノニシテ必要缺クベカラザル療法ナリト信ズ．

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