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日外会誌. 124(2): 151-153, 2023

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理想の男女共同参画を目指して

女性外科医の活躍はパートナーの育児,家事参加から始まる―まずはパートナーの保育園の送り迎えから―

大阪大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科学

島津 研三

内容要旨
女性医師の能力が一生涯にわたって発揮できるキャリアパスを作るためには多くの方策が必要である.その一つにパートナーの育児への参加がある.その点について私見も交えて必要性を述べた.

キーワード
男女共同参画, アンコンシャスバイアス, パートナー, 保育施設, 育児

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I.はじめに
外科医の減少に歯止めがかからない.日本全体では労働人口は減少の一途をたどっている.このような背景から女性医師,女性労働者の活躍の場をどのように整備していくかが,医療界だけでなく,社会全体の喫緊の課題である.

II.アンコンシャスバイアス
わが国の国民性として男性は外に出て働くのが役目で,家事,育児をすることは好ましくないといったアンコンシャスバイアスがある.アンコンシャスバイアスとは無意識の価値観の偏りのことである.この状況は徐々に改善されつつあるが,ジェンダー・ギャップ指数が世界156カ国中120位いうのは非常に恥ずべき結果であるが,これは当然の結果と言える.というのも,育児に関しての男性の関与が非常に低いというのは,私にしてみると身に染みて感じる時が多いからである.例えば,ここ数カ月コロナの影響もあり,子どもが発熱したから病児保育に入れる必要があるなどの理由で女性医師からの急な時短,欠勤要請が非常に多かった.どうして女性医師ばかりが迎えに行って,パートナーは行かないのか?パートナーはそれをいくらか分担しているのかという疑問が残る.ここで,パートナーが仕事を途中で欠勤して迎えに行くという概念がないのが大きな問題であるし,そもそもそんなこと上司に恥ずかしくて言えないとか,女性医師もそれをしないと妻として恥ずかしいなどの思いもあるのかもしれない.これは大きなアンコンシャスバイアスである.

III.現状
私が勤務する大阪大学乳腺内分泌外科のここ10年の入局者の推移に関して言うと男性医師の激減と女性医師の激増がほぼ同時期に起こっている.その女性医師の多くが結婚し,その後,産休,出産,育休,復職の後,子どもが独立するまで長い育児期間に入る.非常に残念なのが,大学院時代に優れた資質を示した女性医師がこの子育て中に研究面で大きくトーンダウンすることである.医学研究において最も重要な因子の一つに時間がある.研究に当てる時間というのは多くは自己研鑽の時間であり,それはある意味自由時間である.その自由時間を子育てに当てるのは当然と言える.よって,時間数に左右される研究面での業績を多く残すことは至難の技である.しかし,それを黙って見ているわけにいかない現状がある.と言うのもこれだけ女性医師が増えると20年,30年後は女性指導者が必ず必要になってくるからである.いかに女性医師が一生涯にわたってその能力が発揮できる環境を整備するか,それが私に与えられた大きな使命の一つである.根本的には社会の意識の変革が必要であるが,それには10年単位の時間が必要である.一方で,職場環境については努力次第で早期に実現が可能である.海外では乳腺領域では多くの女性指導者,教授がいる.彼女たちは診療においても研究においても男性指導者とほぼ互角の仕事をして,公正に選ばれて指導者の地位にいる.家庭や,子どもを持っていてもそうである.米国では日本のように公的な保育施設は整備されていないが,ナニー(家政婦)という職種があって,全日で子どもの面倒をみてくれる.料金は高額であるが,管理職を目指す女性医師にとっては,それを払っても十分なメリットがある.全日みてくれるので,出産前と同じようにフルタイムで勤務できるわけである1).しかし,そのような制度を日本ですぐに作ることはまず不可能である.

IV.小さくても実効性のある対策
では,どうするか?上記にあげたように女性医師の大きな障壁になっている保育施設への対応をまず改善したいと思っている.小さなことではあるが,その積み重ねが莫大な時間の創成に繋がる.実際に当教室の関連病院で子育て中の女性医師17名に保育施設への送迎についてアンケートを取ったが結果が図1(自分は女性医師を指す)である.パートナーのみで送迎を行っている事例はなかった.69%は女性医師単独で,女性医師とその他が残りを占める.多くの項目が男女共同参画に必要ですと列挙しても何ら解決に繋がらない.小さなことでもいいから実効性のあることを積み重ねることが肝要である.さらにパートナーの職種も調査したところ9割弱が医師であった.もし,大阪大学所属であった場合には,私は当該医局の責任者に保育施設への送り迎えをいくらか負担してもらうようにお願いしに行っている.1日でも2日でもそれをしてもらえると,その日について女性医師はフルタイムで働けて,能力が十分発揮できるのである.パートナーは子どもとの時間ができるのである.まさに一石二鳥である.パートナーには是非,育児への積極参加をお願いしたい.

図01

V.おわりに
読者の中には外科系講座の管理職の先生もおられると思う.もし部下の男性医師が保育施設に子どもを迎えに行くので早く帰らせてほしいと言ってきたら,素晴らしいことだと思って許可してほしい.この寛容さが,女性医師だけでなく多くの男性医師を集める力になる.

 
利益相反:なし

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文献
1) 村上 由美子:女性は日本社会の“Best Kept Secret”, 武器としての人口減少社会.光文社,東京,pp73-123,2016.

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