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日外会誌. 123(1): 1, 2022

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Editorial

安全・安心な外科医療

山梨大学 外科学講座第一教室

市川 大輔



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一年間延期されたTokyoオリンピックが開催された.世界中の新型コロナ感染拡大の中,オリンピック開催の意義について様々な議論が交わされたが,6月には「安全・安心なオリンピック」をスローガンに開催が正式決定された.しかしながら,7月に入ってからの感染の再拡大もあり,無観客での開催が多く開催自体が目的となったようにも感じられる.
さて,そのスローガンにもなっている「安全・安心」であるが,そもそも,「安全」と「安心」は似て非なるものであり,「安全」は客観的な検証に基づくものであり,「安心」は各々の受ける側の印象によるものである.医療分野でも「安全・安心の医療」などと頻用されるが,「安全」はわれわれ医療従事者側からの客観的な評価に基づくものであり,「安心」は医療を受ける患者側からの主観的な印象である.安全と考えられても必ずしも患者にとって安心な医療とは限らず,逆に,患者が安心して受ける医療であっても必ずしも客観的立場から安全とは言い切れない医療もあるわけである.そんな中,「安全・安心な外科医療」の提供を目的として様々な努力が行われているが,「安全」については2016年度より特定機能病院に義務化された「高難度新規医療技術の導入プロセス」の明確化はその1例であり,「安心」については,各施設のHPを通じての情報提供や,「がん相談支援センター」の設置や医師や看護師による「がん患者指導管理」もその1例である.話をオリンピックの話題に戻すが,開催時の観客入場について議論されている時期に,米国MLBの大谷選手が出場したオールスターゲームが話題になった.現地の報道では,観客席にマスク姿が少ないのに驚いたが,ワクチン接種率の差もあるかと思うが,国民性による「安心」に対する閾値の違いもあるように思われる.「高難度新規医療技術の導入」においては,周到な準備状況を説明した上であるが,患者自身に当該技術の何例目であるかを明示した上で同意を得ることになっているが,要求レベルの高いわが国の国民が「安心」して高難度新規医療を受けられるか,甚だ疑問である.導入当初は指導的立場の経験者を招聘した上での施行が推奨されているが,何例目まで招聘するか,など具体的な内容は各施設に任されているのが現状である.
新型コロナ感染拡大により,リモートワークが定着しつつあり,医療においても学会や会議などはWeb開催が主となり,遠隔診療も実際に行われ出した.日本外科学会では,外科診療においても「手術支援ロボットを用いた遠隔手術のガイドライン策定に向けた実証研究」に着手され(詳細は日本外科学会HP参照),ロボット手術の普及や5G環境の整備などとも相まって俄かに現実味を帯びてきた.外科医不足がさけばれる中,都道府県や,できれば二次医療圏も超えることなく,地域において各々の患者が「安心」できる高難度外科治療が受けられる,そのような真の外科治療の均てん化が図られることを期待している.

 
利益相反:なし

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