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日外会誌. 122(6): 664-666, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(4)「情熱・努力を継続できる外科教育」
1.オンライン臨床実習における外科実技指導の試み

千葉大学 大学院医学研究院先端応用外科

遠藤 悟史 , 佐々木 拓馬 , 木下 和也 , 平澤 壮一朗 , 鎌田 敏希 , 龍崎 貴寛 , 岡田 晃一郎 , 松本 泰典 , 豊住 武司 , 加野 将之 , 村上 健太郎 , 坂田 治人 , 松原 久裕

(2021年4月9日受付)



キーワード
臨床実習, 遠隔スキルトレーニング, モチベーション

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I.はじめに
これまで医学生はベットサイドにおける臨床実習で知識,診察技法,態度を学修し,外科の臨床実習ではこれらに加え,手術手技などの外科的スキルを学修してきた.しかしCOVID-19 の流行により当大学では2020年4月からおよそ1年間にわたり従来の臨床実習が中止となった.その間オンラインでの臨床実習を余儀なくされ,対面で教えることが常識であった外科的スキルトレーニングの機会が失われると考えられた.内科各科においては,オンラインでのPBLやケーススタディなどで対応することとなったが,外科系診療科ではこれまで医学生に対する遠隔スキルトレーニングについて経験がなく,かつ論文などでの報告もほとんどされてこなかった.医学生側も教員側も未知の環境に置かれ,医学生側からは先行きの不透明さにおける不安の声があがり,教員側からはオンラインでの外科臨床実習の是非や効果について疑問の声が上がっていた.さらに近年は医学生の外科の臨床実習に対するモチベーションの低下を医学教育の現場では実感しており,それに加えオンラインでの外科臨床実習を受ける医学生のモチベーションをいかに保つかについてもこれまで報告はなく,われわれも五里霧中の状態であった.そこで今回のコロナ禍をきっかけに,遠隔スキルトレーニングを行いつつ,オンライン外科臨床実習に対する医学生のモチベーションを上げ,さらには外科志望者を開拓する方法はないかと模索することとした.

II.目的と方法
今回の目的としては,COVID-19流行下でもオンラインで医学生に外科的スキルトレーニングを行う事であり,さらにオンラインでの外科的スキルトレーニングが,医学生のモチベーションの維持に貢献するかについても検討する事とした.
オンライン臨床実習で行う外科的スキルは最も基礎的な技術である糸結びと縫合結紮とした.腹腔鏡下縫合実習も従来の臨床実習では行っていたが,器材の準備および費用の観点から不可能と判断した.当科におけるオンライン外科臨床実習の構成としては,①オンラインでのオンデマンド型の講義,②手術ビデオの解説講座,③模擬患者サマリー作成,および④オンライン外科的スキルトレーニングを行った.なおオンデマンド型の講義では,一人一つ講義に関連する質問を掲示板に記載して,指導医が返信した段階で履修登録として視聴の担保を行った.
オンライン外科的スキルトレーニングではテレビ会議システムのZoomと,Learning Management SystemのMoodle,および医学生の日常に根差したSNSのLINEの3者を併用することで,医学生と教員間の双方向性および個別性を担保する事とした.具体的には,まずMoodleに動画・静止画を含めた糸結びと縫合の指導テキストを作成し医学生に事前学修をさせた.次に反転授業としてZoomによるオンライン授業を行い,オンラインでのフィードバックを行った.最後にLINEで,自宅での練習動画を医学生から教員へ送信してもらい,教員から各自の到達度にあわせて継続的にフィードバックを与えた.送信回数は1週間に最低1回と設定したが,回数制限はなしとした.1週間後に再度Zoomで全体にオンライン授業を行い,各自の問題点をグループで共有し,医学生同士で形成的評価を行わせた.その後再びLINEでの個別フィードバックを繰り返した.最終回には,医学生同士で総括的評価をさせ実習班の中で最優秀者を決定した.当初は教員からの総括的評価を考慮したが,医学生のモチベーションが逆に下がることを憂慮して,あえてpeer coachingの形式を取る事とした.
実習後に医学生にアンケートを行い,5段階のLikert scaleでオンライン外科的スキルトレーニングおよび外科臨床実習全体を評価した.

III.結果
2020年5月~12月までに糸結びは96名,縫合結紮は76名に対して本実習を行った.実習班の構成人数は9~12人であり,時期により2~4週間と実習期間のばらつきも存在した.外科的スキルの上達度に関しては,教員による客観的評価は行わなかったが,個別フィードバックを繰り返した結果,教員の主観的評価では医学生としては全員が合格レベルであると評価できた.医学生のアンケート結果では,全員が自己の技術の向上を実感し,98%の医学生は本実習を楽しかったと回答し,97%の医学生が本実習は有意義であったと回答した.Likert scaleではMoodleの教材およびZoomの授業は5ポイント中4.1ポイントという評価であったが,LINEでのフィードバックは4.7ポイントと最も高評価であった.また自由記載の回答を検討すると,本実習およびSNSによる個別フィードバックが,実習全体に対するモチベーションの向上に寄与したと評価された.具体的には糸結びや縫合という具体的な課題があること,および丁寧なフィードバックがあることで上達が実感できることがモチベーションの維持に有効であったと評価された.また臨床実習の多くに自主性を重んじていたため,その点が非常に良かったという評価の反面,管理されていない状況ではオンラインの講義などに集中できなかったという意見も散見された.

IV.考察
本形式はCOVID-19の流行が持続した場合や新たな感染症が発生した場合でも継続可能と考えられ,実際に緊急事態宣言が解除され従来の臨床実習が再開したのちも本実習は継続された.のちに当院でクラスターが発生し臨床実習が再度中止となった際も継続することが可能であった.
本実習のメリットとしては,医学生に対してこれまでと同様に糸結びと縫合を教授することが可能であり,さらには医学生の外科的スキルの習得において従来の臨床実習と同レベル,もしくはそれ以上の効果を認めた.その理由として個別化を行えることで,それぞれの医学生の習得レベルに応じたきめ細かい対応が可能であったことが最も重要な点であったと思われる.また事前の想定以上に実習全体へのモチベーションの維持にも影響を与え,コロナ禍でのオンライン外科臨床実習という未知の状況において,非常に有益なカリキュラムになったと思われる.
デメリットとしては,今回は新しい挑戦で準備期間もなく,医学生へのフィードバックや教材作成を一人の教員がすべて行ったため,ある程度の負荷となった.しかし教材はインターネット上にも多数存在しており新たな教材を作る必要はなかったかもしれない.またLINEでのフィードバックに関しては,LINEは個人情報であり様々なハラスメントが問題となる昨今の状況に配慮し,医学生と過度に距離感を近くしすぎないように注意を払い使用した.そして個別のフィードバックに時間が掛かるが,医学生の外科的スキルの問題点はみな同様であることが判明したため,後半は比較的容易に対応が可能であった.

V.おわりに
双方向性・個別性を担保した本形式は,医学生の満足度やモチベーションの維持に貢献した.また清潔操作やガウンテクニック,静脈ライン留置など様々なスキルに応用可能であり,通常の臨床実習でも採用できる本形式は医学生に対する遠隔スキルトレーニングの方法として非常に有用であると考えられた.

 
利益相反:なし

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