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日外会誌. 122(5): 543-545, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第121回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「高難度新規医療技術導入に対する取り組み」
5.高難度新規医療技術評価制度の先駆的創設;筑波大学附属病院における運用実績

1) 筑波大学 消化器外科
2) 筑波大学 心臓血管外科
3) 筑波大学 呼吸器外科
4) 筑波大学 代謝内分泌外科
5) 筑波大学 小児外科
6) 筑波大学 臨床医療管理部

小田 竜也1) , 平松 祐司2) , 佐藤 幸夫3) , 原 尚人4) , 増本 幸二5) , 下村 治1) , 高橋 一広1) , 土井 愛美1) , 古屋 欽司1) , 大和田 洋平1) , 小川 光一1) , 大原 佑介1) , 明石 義正1) , 久倉 勝治1) , 橋本 真治1) , 榎本 剛史1) , 左津前 剛6) , 和田 哲郎6) , 本間 覚6)

(2021年4月8日受付)



キーワード
高難度新規医療技術, 企画申請, 実施申請, 曜日ユニット別審査

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I.はじめに
2016年6月の医療法改正に先立つ事1年,2015年6月に筑波大学附属病院は独自にハイリスク手術検討委員会を立ち上げた.対象術式は,
a.全国的には広く行われている医療技術であるが,本院での施行経験は無く(少なく),本院として新たに開始する場合.
b.全国的にもほとんど行われた事のない(場合によっては第1例目)の医療技術,または全国のごく一部の施設のみで行われている特殊な医療技術を,本院として新たに実施する場合.
c.術式としては標準的なものであるが,大きな改良,工夫を加えて行う場合.
と定めたが,後に発表された日本医学会からの提言と概ね一致したものである.さらに,2016年からは手術以外の医療技術も対象とする高難度新規医療技術検討委員会に改名し活動を続けている1) 2)

II.制度の特徴
本検討委員会は3段階で高難度医療技術の安全性を担保する仕組みを整えている.1段目は「企画申請」で,診療科には高難度医療技術を企図した準備段階で診療科内,および関連診療科との合同検討会を行う事を課し,その議事録の提出を指示している.同時に,該当技術の手術手順書,有効性,安全性,体制の整備状況,患者へのIC説明文を診療グループ長の直筆のサインと共に提出し,委員会とのreviseのやりとりを経て承認を受ける.
2段目は,実際に個々の症例に手技を施行する1週間前までに提出する「実施申請」である.「企画申請」は術式に関する総論を審査するものであるが,「実施申請」は個別の症例の状況,特殊性を加味したうえで,個別の症例への実施可否を判断するものである.
3段目は「実施報告書」で,退院後1週間以内に,長期入院例においては術後1カ月以内に,術中,術後の経過を報告する事としている.影響度3b以上の合併症が生じた場合,直ちにリスクマネージメント委員会に報告され,そこで継続の可否が検討される.
この2,3段のステップを最初の5例に行い,検討委員会が問題無しと判断した場合,当該術式は当院において“新規技術”ではなくなり以後の申請は不要となる.逆に,懸念が残る医療技術に対しては,10例までの企画申請と実施報告書を継続して求める事がある.

III.運用の実際
3段階の審査ステップを踏むことは安全性の担保には非常に有効であるが,一方で審査委員に多くの負担を強いることになる.そこで当院では月~木曜の曜日別ユニットによる分散審査を設定し委員の負担軽減と迅速な審査の両立を図った.高難度新規医療技術検討委員会の2人の副委員長が二つのユニットリーダーを担い,各ユニットは専門の異なる6人の委員で構成した.予め6人の委員は都合がつきやすい曜日のメンバーになっている為,委員会招集の日程調整が不要になり,迅速な委員会審査の運用に非常に有用であった.
2015年5月から2020年8月までに92件の企画申請が行われた(図1).そのうち9件の申請に対して変更の勧告を行い,現在の所83技術が承認されている.当初は15〜20件/年の申請があったが,腹腔鏡,ダビンチ関係の手術手技,心臓血管系のカテーテル治療の審査が一通り済み,最近は5〜10件/年の申請に落ち着いている.
診療科別の企画申請件数を図2に示す.泌尿器科19件,消化器外科17件はほとんどが腹腔鏡下またはロボットアシスト下の術式,循環器内科からの18件はTAVIなどの経皮的カテーテル心臓治療に関するものであった.
当院がハイリスク手術検討委員会で審査を必要と定めた対象術式は,日本医学会からの提言が出される前に独自に設定したものである.従って,外保連試案の術式との相関は考えずに運用がされている.今回,外保連試案との関連を改めて見てみると,企画申請された92術式のうち,D(13術式),E(55術式)に相当したのは68術式(74%)で,該当するものがない16術式や,逆に,Cに相当する8術式も審査を行っていた事が解った.有害事象の影響度は0(231例),1(17例),2(13例),3a(14例),3b(13例),4(0例),5(1例)であった.影響度5の1例は植込型補助人工心臓装着術の後に呼吸不全,心不全が原因で死亡したものである.原疾患に起因する死亡のため,術式の問題ではないと判断し,継続実施を許可している.

図01図02

IV.おわりに
全国に先駆けて当院独自に開始した高難度新規医療技術等評価委員会は企画申請,実施申請,実施報告という3段階の審査ステップを,複数科の委員からなる曜日毎ユニットで行う事により,スムースかつ安全に高難度新規医療技術の導入が進んでいる.医療の進歩に伴い各領域で新規医療技術などが開発されている現在,それを必要とする症例に,安全に提供する事は極めて重要である.その目的の為に,当該診療科以外の専門家の目を通して迅速に評価することは,それを受ける患者さんを守る事はもとより,よりよい医療をめざして努力する実施者を守る事でもある2)

 
利益相反:なし

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文献
1) 原 尚人 :高難度新規医療技術導入の審査・事後検証部門.日外会誌,119(2): 244-245, 2018.
2) 和田 哲郎 , 髙橋 伸二 , 後坊 健太 ,他:筑波大学附属病院における高難度新規医療技術等評価院内制度の創設と運用状況.医療の質・安全会誌,15(3): 227-233, 2020.

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