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日外会誌. 122(1): 80-82, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
3.外科専門医カリキュラムにおけるサブスペシャルティキャリアの課題と展望

1) 北海道大学大学院医学研究院 消化器外科学教室Ⅱ
2) 製鉄記念室蘭病院 外科
3) 名古屋大学大学院医学系研究科 消化器外科学
4) 東京慈恵会医科大学 外科学講座

サシーム パウデル1)2) , 倉島 庸1) , 平野 聡1)2) , 小寺 泰弘3) , 大木 隆生4)

(2020年8月14日受付)



キーワード
外科教育, サーベイ, 外科修練システム, サブスペシャルティ修練

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I.はじめに
本邦では,外科を取り巻く状況において欧米と共通する部分が多くある一方で,外科教育分野に対する取り組み,およびそのシステムに関しては改善の余地がある.2018年より新しい専門医制度が導入されているわが国において,外科修練の現状把握とその理解にもとづく将来のストラテジーが必要である.

II.アンケート調査
日本外科学会は,本邦の外科修練制度の現状把握,および外科専門医取得時に期待される手術手技のレベルと実際に専門医が習得しているレベルの差を明確化する目的で全国アンケート調査を行った.アンケートは2016年度外科専門医認定試験の合格者,およびその指導責任者を対象とした.アンケート調査の回答率は,専攻医が56.33%(512人/909人),指導医が76.76%(469人/611人)であった.外科専門医取得時にサブスペシャルティが決まっていない専攻医は14人(3%)のみであった.アンケート調査の結果,半数程度の専攻医はカリキュラム内容が実際の修練内容と合致していないと考えていた.また,専攻医の多くは手術室以外でのトレーニングの必要性を感じていたが,実際に満足のいく指導を受けていると回答した者は少数であった1)
アンケート調査の後半では,手技に関して専攻医の手術技能自己評価と,指導医が専門医取得時に専攻医に期待する技能レベルを調査した.調査を開始するにあたり,日本外科学会教育委員会と外科専門医修練カリキュラム検討ワーキンググループの各委員による無記名アンケート調査を行い,外科専門医取得時に手術の大半を自ら行えることが望まれる31手技を抽出した.専攻医に執刀の機会が多い虫垂切除,鼠径ヘルニア手術,胆嚢摘出術に対しては,手術の大半を専攻医が行えるべきと期待している指導医の割合と,実際に期待通りのレベルに達していると回答した専攻医の割合は8割程度であまり差はみられなかったものの,乳腺外科や呼吸器外科領域の基本手術手技に関しても期待している指導医の割合に比べ,自立度がそのレベルに達していると自己評価した専攻医の割合が低い結果となった2).一方で,乳腺外科や呼吸器外科志望の専攻医は自分の領域の手術手技に関しては概ね自立していると回答した(図1).

図01

III.考察
本邦では外科修練は3階建てに構成されており,1階部分に外科専門医,2階にサブスペシャルティ(消化器外科,呼吸器外科などの各専門医),3階部分に高次専門医(肝胆膵外科専門医,内視鏡外科技術認定など)がある.海外では明確に一つの修練が終わってから次の修練が始まる明確な境界があるに対して,本邦ではこれらの境界が明瞭でなく,本邦の外科修練カリキュラムの特徴として初期研修から3階部分の高次専門医の修練まで連続したキャリアとして修練を積むことが通例になっている.
外科学会には六つのサブスペシャルティが存在するが,修練開始の早期から進むべきサブスペシャルティを決定している専攻医が多いことが,修練カリキュラムへの満足度や特定の手術手技に対する指導・修練機会や習得度に関連している可能性が考えられる.外科専門医制度はカリキュラム上,一般外科の修練を目的としたシステムとして確立されているが,実際にはサブスペシャルティの専門資格を取得するための第一段階として考えられているのが現状と思われる.したがって,専攻医が選んだサブスペシャルティ領域によって,さらには所属する修練施設によってその修練状況が大きく異なり,研修終了後の専攻医のレベルに大きな差が生じているものと考えられる.外科専門医として最低限どこまでの手技をどの程度自立して行えるか,という定義はされておらず,客観的に評価されるシステムも存在していない.
参考までに,イギリスの外科修練カリキュラムでは,専門医の定義はあらゆる救急手術に対応できる外科医となっている3).そのため2年間の初期研修の後,2年間の外科系共通の外科基本修練および競争的試験を合格した後に,6年間の一般外科とサブスペシャルティの修練へ進むこととなる.その修練内容は修練医のサブスペシャルティの志望によって異なり,各疾患の知識と技量に関して修練医すべてが達成すべき共通目標とサブスペシャルティ志望別に達成すべき目標が設定されている.これらの目標は何年目でどれだけのレベルに達するべきかを明確にしており,またその客観的評価も義務付けられている.
本研究のlimitationとして,旧専門医制度下の専攻医,指導医に対する調査である点が挙げられる.新専門医制度においては,修練は様々な病院群からなる研修プログラムで行われており,経験数などが変化している可能性がある.しかし,新専門医カリキュラムにおいても修練医すべてが達成すべき共通目標など旧カリキュラムに共通する項目も多く,修練内容自体が大きく変わってない可能性がある.今後は新専門医制度の同様のアンケート調査など評価を行い,更なる専門医教育の充実につなげたい.

IV.おわりに
外科専門医カリキュラムは次のキャリアステップとなるサブスペシャルティ修練へ強い影響を及ぼす.新専門医制度を運用する中で,わが国の外科修練の現状に合う,将来の外科修練カリキュラムのグランドデザインの一案として以下の6項目を提案する.
1)外科共通達成項目設定:外科専門医として,サブスペシャルティ全てに横断的に必要とされる共通達成目標を設定する.例:縫合結紮,全身管理の理解,胸腔ドレーン挿入,外科的気道確保など.
2)サブスペシャルティ志望別の修練項目設定:共通達成目標に加え,修練医のサブスペシャルティの志望別に外科専門医習得時までに取得すべき達成項目を設定する.
3)習熟度の具体的達成目標設定:達成目標の習熟度に関して症例経験数のみでなく,より具体的な内容を含めた習熟度の目標を設定する.
4)達成度のスケールを用いた評価:以上の達成目標が達成されているかを具体的な評価スケールなどを用いて手術室などで指導医が定期的に評価できるシステムの構築.
5)シミュレーショントレーニングの導入:シミュレーターによりトレーニング可能な手技を明確にし,カリキュラムの中でシミュレーショントレーニングを必須項目とする.
6)定期的カリキュラム改定:修練カリキュラムとしての妥当性を定期的に評価,改定するシステムが必要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) Saseem Poudel, Satoshi Hirano, Yo Kurashima, et al.: A snapshot of surgical resident training in Japan: results of a national-level needs assessment survey. Surg Today, 49: 870-876, 2019.
2) Saseem Poudel, Satoshi Hirano, Yo Kurashima, et al.: Are graduating residents competent enough? The results of a national gap analysis survey of program directors and graduating residents in Japan. Surg Today, 50: 995-1001, 2020.
3) The Intercollegiate Surgical Curriculum Programme. https://www.iscp.ac.uk/curriculum/surgical/curriculum.aspx

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