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日外会誌. 99(12): 821-824, 1998
特集
開心術における低侵襲的アプローチ(MICS)の現況と展望
4.大動脈弁疾患における低侵襲手術
I.内容要旨近年の心臓外科手術成績の向上に伴い,侵襲を極力小さくする努力が払われるようになった.左小開胸下のMIDCABは,人工心肺という手技およびその特殊な循環動態によるさまざまな侵襲を完全に排除できる利点をもつが,弁膜疾患に対しては人工心肺装置の使用は不可避であり,本来の意味でのminimally invasiveであるかどうかは議論の余地がある,何れにしてもMICSで手術を行う際の最低限かつ最も重要な条件は手術の質(Quality)を落とすことなく,かつ手術riskを増加させないことである.
MICS特にparasternal approachで大動脈弁の手術を考慮する際に重要なことは,大動脈と大動脈弁の位置を術前に充分把握しておくことである.また腸骨動脈領域に動脈硬化病変が存在する症例は逆行性の脳塞栓の危倶があり,parasternal approachは避けて胸骨部分切開で行う方がよい.出来るだけ良好な視野を得るための工夫として,我々は内胸動脈用リトラクターを胸骨にかけて引き上げ,次いで上下および左右にそれぞれ開胸器を掛けている.この操作により送血も上行大動脈から行える症例もある.一方,胸骨部分切開の一つであるj-sternotomy approachはMICSによる大動脈弁手術においては安全で確実な術式と言える.このj-sternotomy approachの利点は,送・脱血管,左室ベント等の挿入が通常の正中切開とほぼ同じ感覚ででき,大動脈根部の手術操作に何ら支障を感じない点である.比較的経験の浅い術者にも胸骨傍切開によるapproachよりも安全かつ確実に施行できると考える.
SIRSの観点より手術の侵襲度をMICSと通常の手術との問で比較検討すると,その程度および持続期間共に有意な差を認めず,MICSは必ずしもminimally invasiveとは言えないと考えられた.しかしながら,なるべく小さな創で,なるべく低侵襲に行う手術へというの外科の潮流は間違いなく心臓外科領域にも押し寄せており,MICSが標準術式として大動脈弁手術の第一選択肢に揚げられる日は意外に近いと思われる.
キーワード
MICS, 大動脈弁疾患, AVR, 胸骨傍切開, j-sternotomy approach
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