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日外会誌. 99(8): 497-503, 1998


特集

臓器不全の病態と対策

5.Bacterial translocation (BT) と臓器不全

帝京大学 医学部第2外科

福島 亮治 , 小林 暁 , 冲永 功太

I.内容要旨
Bacterial translocation(BT)とは腸管内に存在する細菌あるいは細菌毒素が粘膜やlamina propriaを通過して腸間膜リンパ節,脾,肝,腹腔内,血液などへ侵入する現象と定義され,動物実験を中心とした多くの研究から出血性ショック,熱傷,腹膜の炎症,放射線照射,完全静脈栄養,膵炎,腸閉塞,エンドトキシン血症などの際におこることが確認されている.このBTは,臨床上,明らかな感染症を認めないにもかかわらず発症してくるsepsisやseptic MOF(多臓器不全)の原因,あるいはその促進因子となるのではないかと指摘されてきた.すなわち,腸管から全身へ侵入した細菌,もしくはエンドトキシンは,マクロファージを刺激してさまざまな炎症性サイトカインの産生を促進,全身の炎症反応を惹起する.多量に産生分泌されたサイトカインはさらにサイトカイン産生を促進したり,好中球や補体系,凝固系,内分泌系をも含めた複雑な経路を活性化する.そしてこれらの経路が活性化されると,腸管への血流や酸素供給は悪化し,腸管のバリアー機能はさらに傷害されてtranslocationを増加させるという悪循環を形成し,やがてMOFに陥るとされる.事実,動物の熱傷や出血性ショックモデルにおいては,BTと生存率が密接に関連しているなど,この仮説を支持するデータが得られている.しかし,特に臨床症例においては,BTそのものの存在を疑問視したり,BTが存在するとしてもそれは重症患者でのepiphenomenonであるとしてMOFとの関係を否定する見解もある.最近では腸管自体がサイトカインなどのメディエータを産生することが判明してきており,腸内細菌の全身への移行という概念から,このメディエータが全身の炎症反応惹起の引き金となり,MOFへと進展するという新しい概念も提唱されてきている.

キーワード
腸管, bacterial translocation, GALT, サイトカイン, MOF

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