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日外会誌. 98(9): 773-777, 1997


特集

進行度を配慮した食道癌外科治療

Ⅳ.T4(A3)症例における外科治療と補助療法
3.合併切除が有用なT4症例の手術

長崎大学 医学部第1外科

綾部 公懿 , 原 信介 , 岡 忠之 , 赤嶺 晋治 , 高橋 孝郎 , 糸柳 則昭

I.内容要旨
隣接臓器に浸潤するT4(A3)食道癌はリンパ節転移,遠隔転移の頻度も高く,その治療は困難である.食道は漿膜を欠き,重要臓器に接して走行するという解剖学的特性から,食道癌は容易に隣接臓器に浸潤する.浸潤の頻度の高い臓器は大動脈,気管・気管支である.T4食道癌に対する隣接浸潤臓器の合併切除を含む拡大手術は,大動脈,気管・気管支など合併切除とその再建が困難であったこと,術後合併症,手術死亡率の頻度も高く,一方予後は不良であったことより,その報告は稀であった.しかし最近心臓血管外科,呼吸器外科領域の進歩により大動脈あるいは気管・気管支の再建手術は安全なものとなってきており,食道癌拡大手術も積極的に行われるようになってきた.
T4食道癌に対する拡大手術の目的は,1.癌腫の完全切除により根治性の向上を計り,長期生存を期待する,2.気道閉塞,吐血などの隣接臓器浸潤により生じる合併症を防止する.3.食道再建術が行われるので経口摂取が可能となる,などが挙げられる.浸潤による合併症と経口摂取に対しては最近開発された優れた各種ステントの気道及び食道への挿入により症状の改善が得られるようになった.従ってT4食道癌に対する拡大手術の有用性はその根治性を求め長期生存を期待することになる.これまでの報告を検討するとT4食道癌合併切除により長期生存が期待される因子として,1.遠隔転移がなく所属リンパ節転移がないか軽度にとどまるもの,2.合併切除により食道癌の完全切除が可能と判断されるもの,3.化学療法,放射線療法などのinduction therapyの有効なものが挙げられる.
今後これらの選択されたT4食道癌に対し拡大手術が行われれば,その手術成績の向上が期待しえるものと思われる.

キーワード
T4食道癌, 食道癌手術, 大動脈合併切除, 気管・気管支合併切除, 予後

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