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日外会誌. 98(1): 16-25, 1997


特集

肺癌治療の現状

4.肺癌に対する手術成績の変遷

金沢大学 医学部第1外科

渡辺 洋宇

I.内容要旨
肺癌の手術は1933年Grahamによる単純肺摘除術に始まる.その後,解剖学的切除(肺動脈,肺静脈,気管支の別個処理による切除法),続いてリンパ節郭清を伴う,いわゆる根治的肺切除が行われるようになった.この間わずか60余年の歴史であるが,肺癌外科治療の成績は大きな変遷を遂げ,またその成績も著しく進歩した.術式では他臓器合併切除,気管気管支形成術,気管分岐部形成術,拡大リンパ節郭清術などが行われるようになった.この間TNM病期分類が設定され,手術成績の国際的な比較が可能となると同時に,組織型,病期を勘案した合理的な手術適応の決定,治療方針の決定が可能となった.
手術成績の変遷についてみると,まず手術死では初期には20%を越えた手術死亡率も10%以下に低下し,最近では数%となっている.Ginsbergら(1983)による多施設集計によると,手術死亡率は3.7%(肺摘除:6.2%,肺葉切除:2.9%)であり,これが現代の標準的頻度となっている.
5年生存率は初期には10~20%であったが,最近の成績では,非小細胞癌の病期別の手術成績は,I期:60~85%,II期:20~40%である. IIIA期ではT3N0M0の胸壁合併切除の成績が29~56%と最も良好である.しかし,N2例の成績は依然低迷しており,特にT3N2例の成績は極めて不良である. N2肺癌の成績改善のため最近はinduction therapyの試みがある.
肺癌に対する気管支形成術は1970年代になってから,肺門部肺癌に対して用いられるようになった.初期には合併症も多く,その成績は良好とはいえなかったが,最近のsleeve lobectomyの成績は良好となった.しかし,気管分岐部切除例の長期予後は不良である.
小細胞癌は一時期,すべて外科治療の対象外とされたが,術前,術後の補助療法(化学療法,放射線療法)併用のもと,I期例の成績は非小細胞と同等であり,最近は進行肺癌に対する外科療法の試みもなされている.

キーワード
肺癌手術, 手術死, 生存率, 気管支形成術, 小細胞癌

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