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日外会誌. 97(6): 427-431, 1996
特集
食道癌外科治療の実際
食道癌手術の術中管理と処置
(3)術中のpit fall
I.内容要旨食道癌手術における偶発症としては,切除郭清操作にともなう食道固有動脈,大動脈,肺静脈などの血管損傷,胸管損傷,気管・気管支損傷,反回神経,横隔神経などの神経損傷,食道再建のさいの胃,結腸などの挙上操作にともなう栄養血管損傷などが生じ得る.大動脈へのA3が疑われる場合の剥離操作では,A 3部がテンティングになり,思いがけず大動脈壁の深い層に入りやすいということを意識しながら剥離を進めなければならない.気管支動脈,食道固有動脈の損傷では出血点を正確に捉えることが困難な場合も多く,したがってまずは圧迫止血を試み,ガーゼで最低10分間圧迫すれば出血の勢いは弱くなる.悪い視野の中で鉗子類を盲目的に操作したり,糸針をかけることは厳に慎まなければならない.胃管や結腸の栄養血管が切離されてしまった場合には,血管吻合を用いて対処するか再建臓器を変更するかの対応策が考えられる.切離された部位での血管再吻合よりも,むしろ栄養血管の末梢端すなわち左胃大網動脈や,右半結腸再建の場合の右結腸動脈や回結腸動脈の切離端を頸部の頸横動脈や前胸壁の胸肩峰動脈,内胸動脈と血管吻合し血行再建する方が好条件が多いと考えられる.開胸下の直視下操作に比べ非開胸食道抜去術は,さらに気管・気管支膜様部損傷の危険性をはらんでいる.自験116例の非開胸食道抜法例中,気管膜様部損傷は3例(2.6%)に発生した.いずれも右開胸下に直接縫合閉鎖し,2例は再建用結腸を後縦隔経路で挙上し,縫合部を背側より被覆した.反回神経は切離しなくても牽引や圧迫により容易に麻痺が生ずるが,明らかに切離した場合でも,その固定位によっては健側声帯の代償運動により,声門狭窄や誤嚥などの重篤な結果を招くとは限らない.切離した場合の神経縫合は無意味であり,声門狭窄に即応できる態勢を整えながら,まず術後の経過を観察すべきである.以上のように臓器損傷した場合の対応,修復は,的確かつ完全でなければならない.
キーワード
食道癌, 偶発症, 食道再建術, 非開胸食道抜去術
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