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日外会誌. 97(5): 381-386, 1996
特集
乳癌領域の最近のトピックス
乳癌の増殖と進展
I.内容要旨乳癌の多くが非浸潤癌の過程を経て浸潤癌へと進展していくと考えられている.浸潤開始以前の非浸潤性乳管癌において既にいくつかのがん遺伝子や染色体の異常が起きており,それらは形態学的に悪性度の高い面庖型(comedo type)に特に高頻度である.浸潤性乳管癌においても多くの染色体,遺伝子や蛋白質レベルの変化がみつかっているが,これらはやはり組織学的に異型度の高いGrade 3の群に集中してみとめられる.このような変化にはがん遺伝子c-erbB-2の増幅,がん抑制遺伝子p53の変異,bcl-2蛋白の発現低下,染色体領域7q,11p,17pの欠失等がある.これらの遺伝子・染色体変化は浸潤癌成分と非浸潤癌成分との間でパターンが一致していることが多く,浸潤の過程に関わる未知の分子の変化が存在すると考えられる.
癌細胞の増殖や浸潤・転移に関わるような分子とその変化が細胞株や切除症例における検討にていくつか明らかにされている.増殖に関してはEGFRやc-erbB-2等のチロジンキナーゼ活性をもつ受容体型の蛋白質が,悪性度の高い乳癌で高頻度に発現ないし過剰発現している.また細胞周期を調節しているG1サイクリン/cdk複合体やそれらの発現の調節に関わるp53等の異常も高頻度でみられる.さらに癌細胞の浸潤・転移の機構として重要と考えられる細胞接着に関わる分子として,カドヘリン群,CD44群等があげられるがこれらの分子の変化が乳癌で高頻度にみとめられ,癌の組織型や転移能と関連することも示された.将来的にこれらの分子間のシグナル伝達経路が明らかにされれば,治療面への応用が期待される.
キーワード
非浸潤性乳管癌 (DCIS), 乳癌, 組織学的異型度, 細胞接着分子群, ヘテロ接合性の消失 (LDH)
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