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日外会誌. 97(3): 202-209, 1996
特集
虚血性心疾患における治療の選択
内胸動脈冠状動脈バイパス術による術後10年生存率及び心事故発生率の改善
I.内容要旨長期開存性に優れる内胸動脈グラフト(ITA)を少なくとも左前下行枝(LAD)に用いることの意義を長期(10年)生存率,心原性死亡回避率,心事故回避率より検討した.さらに長期生存率を不良ならしめる因子を有する低左室機能群,糖尿病群についても検討した.
対象は当科で過去12年間に冠状動脈バイパス術(CABG)を行った954名で,少なくともLADにITAグラフトを用いたITA-CABG群713例,LADにも静脈グラフト(SVG)が用いられたSVG-CABG群241例である.両群間に手術時年齢,性比,不安定狭心症率,緊急手術率,左室駆出率,心係数,左室拡張末期圧に差はみられなかった.しかし糖尿病,高脂血症,左冠本幹病変,罹患病変枝数はいずれもITA-CABG群で高く,より重症化を示した.しかしながら術後5年,10年の生存率,心原性死亡回避率,心事故回避率はITA-CABG群が有意に良好な結果を示した.さらに,糖尿病患者群,低左室機能患者群など予後不良群においては一層,ITAグラフト使用の有効性が認められた.またITAを用いることによる手術,入院死亡率は増加せず,むしろ改善を示していた.LADに対するグラフト開存率はITAの方がSVGより累積開存率として23%優れていた.これらの結果は,(1)日本人患者における静脈グラフトの長期開存性は欧米の報告より「やや良好」であり,長期生存率では手術時年齢が数歳高い割にはSVG-CABG群で「かなり良好」,ITA-CABG群で「やや良好」であった.また,同じ日本人患者の中ではITAグラフトの使用は術後生存率の向上,心事故回避のいずれからも有効であり,糖尿病患者,低左室機能患者でも積極的に勧められ,少なくともLADへのITAグラフトの使用は一刻を争う緊急時以外ではルーチンとして行うべきであると結論した.
キーワード
冠状動脈バイパス手術, 内胸動脈グラフト, 静脈グラフト, 長期生存率, 心事故回避術
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