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日外会誌. 97(2): 140-144, 1996
特集
外科と糖鎖抗原-癌関連糖鎖抗原の意義-
癌の浸潤・転移と糖鎖抗原
I.内容要旨我々は,モノクロナール抗体FH6によって認識されるシアリルLewis X糖鎖抗原の発現が,ヒト大腸癌の進行度と正の相関を持ち,この糖鎖抗原の高発現群の患者の予後が悪いことを見いだしてきた.モノクロナール抗体FH6を用いてcell sortingを行い,得られたヒト大腸癌シアリルLewis X糖鎖高発現細胞および低発現細胞の間で,大腸癌の播種と転移の直接の原因となると考えられる細胞学的性質を比較した.シアリルLewis X糖鎖高発現細胞は低発現細胞に比べて活性化血管内皮細胞に対して強く接着し,この接着は抗体による阻害実験からE-セレクチンを介したものであることが明らかになった.シアリルLewis X糖鎖高発現細胞はヒト肝凍結肝切片に対しても高い接着性を示したが,この接着はE-セレクチン以外の接着分子を介したものであった.シアリルLewis X糖鎖の発現増加のメカニズムを上述のバリアント細胞を用いて調べたところ,両細胞間のシアリルLewis X糖鎖の発現レベルの違いは,シアリルLewis X糖鎖性合成の最終段階を制御するフコース転移酵素の活性の差に起因するものであることが明らかとなった.フコース転移酵素cDNAをシアリルLewis X糖鎖低発現細胞に導入した安定発現株では,シアリルLewis X糖鎖の発現が増加すると共に,活性化血管内皮細胞への接着性が上昇し,ヌードマウスを用いた脾内注入移植モデルで高い肝転移能を獲得した.異常の結果より,モノクローナル抗体FH6によって認識される糖鎖抗原の発現が,大腸癌の播種と転移の直接の原因となる生物学的な性質と関係が深い可能性が強いことが示唆された.
キーワード
糖鎖抗原, 転移, 大腸癌, 糖転移酵素
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