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日外会誌. 96(8): 557-562, 1995


原著

肝保存における,Mitochondriaの電子伝達系からの電子のleakageと脂質過酸化についての検討

1) 東北大学 医学部第2外科
2) オリンパス光学 

遠藤 忠雄1) , 大河内 信弘1) , 及川 公正1) , 渡辺 伸之2) , 織井 崇1) , 田口 喜雄1) , 森 昌造1)

(1992年8月31日受付)

I.内容要旨
肝移植において長時間保存が可能なUniversity of Wisconsin液(UW液)を用いた場合でもEuro-Collins液と同率に,移植後肝機能の発現を見ないいわゆるprimary graft nonfunctionが起きることが知られている.その原因の1つに,再灌流後の脂質過酸化障害が考えられている.生体において脂質過酸化障害を引き起こす活性酸素生成系はいくつか知られているが,我々はそのうちの一つであるミトコンドリアによる活性酸素の生成系が,肝移植において重大な脂質過酸化障害をもたらす系になっているか否かを,ミトコンドリア機能と対比しながら検討した.方法:Wistar系雄性ラットを用い肝摘出直後,4°CのUW液にて浸漬保存した.保存24時間まで6時間ごとにミトコンドリア画分を調製し,ミトコンドリア機能をRespiratory control ratio(RCR)で,ミトコンドリアからのleakage電子量をCypridiana Luciferin Analog添加Chemiluminescence量(MCLA添加LC)で評価した.復温酸素負荷時の脂質過酸化量は自発Chemiluminescence発光量(CL)を測定することで評価した.結果:保存中のRCRは時間とともに直線的に低下した.MCLA添加CL量すなわちミトコンドリアより生じるO2は摘出時から保存24時間までその発生を認めなかった.自発CL量すなわちミトコンドリアの脂質過酸化量は,保存6時間後がやや高い値をとるが次第に低下した.すなわちミトコンドリアの電子伝達系が障害を受けてATP産生能が低下しても電子伝達系からの電子leakageは増加せず,復温酸素負荷時のミトコンドリア脂質過酸化量も低下していた.以上の結果からミトコンドリアより外部へ生じる電子のleakage量は保存時間の延長と共に増加することはなく,再灌流時の脂質過酸化の原因とはなり得ないと考えられた.

キーワード
肝移植, 臓器保存, ミトコンドリア電子伝達系, Free radical

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