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日外会誌. 96(5): 286-294, 1995
原著
残胃吻合部粘膜の十二指腸液逆流による経時的変化に関する実験的研究
I.内容要旨残胃癌は吻合部に多く,またその発生には,十二指腸液の残胃内逆流が関与しているといわれている.今回ラットを用い幽門側胃切除術を行い,偽手術群(1群)n=27,十二指腸液逆流防止群(2群)n=29,および十二指腸液逆流群(3群)n=36の3つの群を作成し,発癌剤を投与せず飼育,10週,20週,50週後の残胃吻合部粘膜の病理組織学的変化および増殖細胞核抗原(PCNA)染色による細胞増殖能について検討した.病理組織学的所見では1群の胃粘膜は著変なく,2群の吻合部は全て萎縮性胃炎の像を呈した.3群の輸出脚吻合部では萎縮性胃炎を呈することを基本的所見としたが,50週を経たものでは異型上皮細胞の出現や腸上皮化生を伴う例が増加した.3群の輸入脚吻合部では,時間経過に伴って異型上皮細胞の出現や腸上皮化生,gastritis cystica polyposaを伴う例が次第に増加し,50週では13匹中6匹に腺癌の発生をみた.
PCNA染色では,1群と2群の吻合部の標識率(L. I.)はともに低く,時間の経過による上昇傾向もなかった.3群の輸出脚吻合部のL. I. は,若干高くなり,経時的にみると50週でL. I. は,増加する傾向があった.3群の輸入脚吻合部のL. I. は他に比して有意に高く,また経時的に有意に上昇した.PCNAの染色パターンは,1群,2群ではほとんど限局型をとったのに対し,3群の輸出脚吻合部で,35匹中びまん型が8匹,輸入脚吻合部では,びまん型が36匹中22匹と増加した.また経過とともにびまん型が増加し,50週で13匹中11匹がびまん型を呈した.十二指腸液に直接暴露された3群輸入脚吻合部残胃粘膜にのみ腺癌が発生した.同部位は早期よりL. I. が高値を呈し,しかも漸増傾向があり,PCNA陽性細胞の分布がびまん型を呈し,細胞増殖が促進されていることが示唆された.以上より十二指腸液の逆流が残胃癌発生の重要な要因であり,それに伴う細胞増殖促進が残胃吻合部粘膜上皮の発癌と密接な関連を有すると考えられた.
キーワード
残胃癌, 十二指腸液逆流, ラット発癌, proliferating cell nuclear antigen
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