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日外会誌. 95(3): 154-161, 1994
原著
食道癌手術の頸部・上縦隔リンパ節郭清における気管固有鞘温存の意義
I.内容要旨食道癌の手術における頸部上縦隔郭清が気道系に及ぽす侵襲の軽減を目的として気管固有鞘を温存してリンパ節郭清を行う手技を試み,その意義について検討した.対象は1987年~1990年の期間に3領域リンパ節郭清を行った右開胸開腹による胸部食道癌切除例のうち左右の胸部気管リンパ節を郭清した35例であり, これらを気管固有鞘温存前の17例と温存後の18例の2群に分けて両群の成績を対比した.右気管支動脈は全例で切離したが,後期では左気管支動脈と自律神経系の温存にもできる限り留意した結果,以下の成績をえた. 1) 内視鏡的気道粘膜の変化:前期では強度発赤以上の所見が88%,潰瘍形成が47%の頻度に認められたのに対し,後期ではこれらがそれぞれ50%と11%に有意に減少した. 2) 呼吸・循環器系合併症の頻度:肺炎は前期の35%に対し,後期では17%に減少した.咳嗽反射出現日には有意の改善を認めなかったが,前期では主気管支以遠の刺激ではじめて反射が出現したのに対し,後期では気管の刺激でも出現し,反射の出現部位に差異を認めた.反回神経麻痺の発生頻度は両群間に差異を認めなかった. 3) 呼吸動態の変動:動脈血酸素濃度 (PaO
2),シャント率 (Qs/Qt),肺胞気ー動脈血酸素濃度較差 (AaDO
2) の各指標は後期においていずれも改善がみられ,各指標とも両群の数値の間に有意差を認めた.血管外肺内水分量 (EVLW) についても改善傾向がみられたが有意なものではなかった. 4) 循環動態の変動:肺動脈楔入圧 (PAWP),左室仕事係数 (LVSWI),平均肺動脈圧 (mPAP) および肺血管抵抗 (PVR) の各指標には両群間に明らかな差異はみられなかった.
以上より,胸部食道癌の頸部・上縦隔リンパ節郭清においては,右気管支動脈を切離しても気管固有鞘と左気管支動脈を温存することによって非温存例で認められた気道系の障害を著明に軽減できることが明らかにされた.
キーワード
胸部食道癌根治手術, 頸部・上縦隔リンパ節郭清, 気管固有鞘, 気道粘膜変化, 呼吸・循環動態
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