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日外会誌. 95(2): 102-108, 1994


原著

門脈枝塞栓術を併用した二期的肝切除に関する実験的研究

大阪市立大学 医学部第2外科
1) 大阪市立大学 医学部第2生化学

田中 宏 , 木下 博明 , 広橋 一裕 , 久保 正二 , 大谷 周造1)

(1992年9月7日受付)

I.内容要旨
門脈枝塞栓術 (PVE) を併用した2期的肝切除術における肝切除後の残存肝(非塞栓領域)再生能や肝機能予備力を評価し,肝切除前PVEの有用性を実験的に明らかにした.
ウイスター系雄性ラットを用い, 70%領域肝切除群 (I群), 70%領域PVE 7日後の塞栓領域の切除群 (II群), 30%領域肝切除群 (III群) およびSham手術群 (IV群) の4群を作成し,術後の残存肝重量, bromodeoxyuridine標識率 (LI), mitotic index (MI),肝組織中過酸化脂質,また血液生化学的検査では血清GOT, GPT, 総ビリルビン (T-Bil) 値,プロトロンビン時間 (PT) およびアンチトロビンIII (AT-III) 活性の変動について検討した.
PVEによる非塞栓葉の再生肥大はその7日後にはほぼ完了したが,塞栓領域の切除により再び再生が開始された.その再生速度は一期的に同領域を切除したI群に比べると有意に緩徐であったが, II群のLIおよびMIは切除率のほぽ等しいIII群に比してやや高い傾向にあった.一方,肝組織中過酸化脂質はIV群を除く各群で上昇し,術1日後に最高値を示したが, I群 (2.07±1.47nmolol/mg) がII・III群 (0.80±0.44, 0.54±0.62nmol/mg) に比し有意に高値で, II・III両群間に有意差はみられなかった.またGOT, GPT, T-Bilの各値はいずれも上昇し,術1日後に最高値に達しI群がII・III群に比し有意に高値で, II・III両群はほぼ同じであった.さらにI群のみで術1日後にPT値の延長とAT-III活性の低下がみられ,いずれも他の3群との間に有意差がみられた.
以上の事実より, PVEによって再生肥大した非塞栓領域の肝はその重量増加にみあった再生能や肝機能予備力を有することが明らかとなり,肝切除術の安全性の向上と切除適応の拡大における術前PVEの有用性が確認された.

キーワード
門脈枝塞栓術, 二期的肝切除, 肝再生, 過酸化脂質, 凝固線溶系

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