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日外会誌. 93(5): 481-487, 1992


原著

制癌剤の肝動脈内注入療法におけるカルシウム拮抗剤の
抗腫瘍効果増強作用の基礎的検討

千葉大学 医学部第1外科

下田 司 , 宮崎 勝 , 宇田川 郁夫 , 越川 尚男 , 伊藤 博 , 奥井 勝二

(1991年3月2日受付)

I.内容要旨
Wistar系雄性ラットにWalker256 carcinosarcomaを用いて肝腫瘍モデルを作成した.カルシウム拮抗剤ベラパミル (VER) を,腫瘍内の制癌剤濃度を上昇させる目的で,肝動脈内注入にて制癌剤アドリアマイシン (ADR) と併用し,制癌剤の抗腫瘍効果増強作用につき基礎的検討を行った.薬剤をbolusにて,肝動脈内注入した場合, VER4mg/kgをADR1mg/kgと併用することにより,薬剤投与後2時間後の腫瘍組織内ADR濃度は, ADR単独投与に比べて約1.9倍の有意な上昇を認めた (p<0.05).しかし,正常肝組織,心筋組織内ADR濃度には差を認めなかった.移植後9日目より6日間ADRを0.6mg/kg/day, VERを1.5mg/kg/dayの量で肝動脈内持続投与した場合, ADRにVERを併用投与した群 (VER併用投与群) は, ADR単独投与群, VER単独投与群,肝動脈結紮群に比べて,移植後15日目の腫瘍重量は有意に減少した (p<0.05, p<0.001, p<0.05).また,腫瘍組織内ADR濃度も, VER併用投与群は, ADR単独投与群に比し有意な上昇を認めた (p<0.05).しかし,正常肝組織,心筋組織内ADR濃度には差を認めなかった.また,肝動脈内持続投与の肝および骨髄に対する安全性をみる目的で,正常ラットに対して同様に薬剤を6日間肝動脈内持続投与した後採血し,白血球数,赤血球数,血清GPT, アルブミン,総ビリルビン,ヘパプラスチンテストを測定した.しかし, ADR単独投与群およびVER併用投与群に差を認めなかった.以上より,制癌剤と共に局所投与としてカルシウム拮抗剤を肝動脈内注入することにより,制癌剤の抗腫瘍効果の増強効果を認めた.また,組織内濃度および血算,生化学検査で示したごとく, VERの併用は,肝組織,心筋組識,骨髄組織などの正常組織に対するADRの毒性を増強させず,正常組織への安全性が認められた.VERの肝動脈内持続投与では,臨床投与に近い量で制癌剤との併用効果が認められ,臨床応用が可能と考えられた.

キーワード
抗腫瘍効果増強, ベラパミル, アドリアマイシン, カルシウム拮抗剤, ウォーカー256癌肉腫

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