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日外会誌. 93(4): 400-412, 1992


原著

特発性門脈圧亢進症の成因
-免疫学的機序の関与について-

大阪市立大学 医学部第1外科

梅山 馨 , 山下 隆史 , 吉川 和彦

(1991年2月2日受付)

I.内容要旨
特発性門脈圧亢進症(IPH)の成因は明らかでないが, 自己免疫機序の関与が疑われている.この点に関して臨床例における免疫学的検討をおこなうとともにIPH脾,同種脾を用いた遷延感作ウサギ実験を行い本症の成因・病態並びに脾の役割について検討した.
IPH 患者末梢血でのT•B リンパ球百分率は健常人と有意差はなかったが, suppressorT細胞機能の低下, Leu3a/Leu2a比, OKT4/OKT8比の高値など自己免疫疾患と類似していた.抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体,抗リンパ球抗体など各種自己抗体が高率に出現し, 1つ以上陽性を示したものは36例中28例 (78%) で,脾摘後正常化する傾向にあった.自己免疫疾患とのoverlap症例もPSS, AIHA, Basedow病など135例中9例 (6.7%) にみられた.
IPH脾ではしばしばリンパ球,プラズマ細胞を中心とした脾炎像がみられることから,脾の役割を検討するため,アレルギー性臓器炎の概念に立脚し, IPH脾あるいは同種脾からの粗抽出液を抗原とし,ウサギに遷延感作を行ったところ,それぞれ79.2%, 47.6%に175mmH2O以上の門脈圧亢進,全例に脾腫がみられ,抗DNA抗体,抗マイクロゾーム抗体などの自己抗体も出現した.組織学的には感作短期の肝ではグ鞘での円形細胞浸潤,脾では芽中心を有する大型濾胞の出現並びにリンパ球を中心とした細胞浸潤がみられた.中期以降では肝での線維化の増強,脾での洞増殖,髄索の線維化がみられ, IPHに類似した組織所見を呈していた.また感作中期以降では末梢血での汎血球減少もみられた.一方,門脈圧上昇因子の検討では脾内の遊離細胞でなく,固着性細胞なかでもミトコンドリア (Mt),マイクロゾーム (Mc) 分画に門脈圧上昇因子が存在する可能性が推測された.また同腫肝粗抽出液にも圧上昇因子がみられた.
以上のことからIPHの成因には免疫異常ことに自己免疫機序が関与し,脾が一定の役割を果たしていると思われた.

キーワード
特発性門脈圧亢進症, 免疫異常, 脾腫, 自己抗体, 自己免疫疾患

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