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日外会誌. 93(4): 377-387, 1992
原著
胸部食道癌リンパ節転移様式の特異性とその要因について
-頸胸連続郭清症例における検討-
I.内容要旨頸胸連続郭清術式によって系統的リンパ節郭清を施行した胸部食道癌切除例のうち術前未治療の110例について転移陽性リソパ節の分布を調べ,これに基づいて食道癌のリンパ系転移経路の構造の特質や転移経路における各リンパ節の重要度について検討した.
全症例の転移陽性率は75%と高率であった.食道の上端・下端付近に位置するリンパ節(反回神経沿線や胃上部周囲のリンパ節)は早期に転移を生じ易く,転移頻度が高く,重要な一次リンパ節と考えられた. とくに右反回神経リンパ節,噴門リンパ節はどちらも転移頻度が40%と著しく高かった.また単独転移は20例中11例が右反回神経リンパ節転移であり, このほか胃上部や左傍気管のリンパ節にみられた.これら上下方向の転移はかなり遠方に位置する癌からでも稀ではなく,上方向転移は癌ロ側端がEi上半より上の例,下方向転移は癌肛門側端がIm以下の例でみられた.転移経路は癌深達度によっても差がみられ, sm症例では中下縦隔転移にくらべ上下方向の転移がとくに多かったが, a1以上の症例では中下縦隔転移も高頻度であった.転移部位相互間の関連性からみて,深頸リンパ節,胸部右傍気管リンパ節は反回神経沿線リンパ節より,腹部左傍大動脈リンパ節は胃上部のリンパ節より遠位に位置するリンパ節と考えられた.
手術成績をみると,単独転移例では生存曲線がn0例と差がなく癌進展がいまだ局在している可能性が高い.一次リンパ節の転移でも手術成績に対する影響は部位によって異なり,右噴門~左胃動脈周囲に比べて反回神経沿線や胸部傍食道のリソパ節転移は影響が大きく,後者を通る転移経路のほうが早期に遠隔転移をきたし易いと考えられた.
このように食道癌には広範囲に分布する多数の独立した転移経路が存在し,経路によって転移し易さや予後に対する影響が異なる.食道癌のN因子の評価においては転移リンバ節の分布形態をも考慮することが必要である.
キーワード
食道癌, 胸部食道癌のリンパ節転移, リンパ節郭清, 頸胸連続郭清術式
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