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日外会誌. 93(2): 183-188, 1992


原著

T1N0乳癌に対する術前照射療法の効果ー乳房温存療法の問題点

1) 国立がんセンター病院 外科
2) 国立がんセンター病院 病理
3) 国立がんセンター病院 放射線治療部

福富 隆志1) , 山本 浩1) , 七沢 武1) , 板橋 正幸2) , 広田 映五2) , 築山 巌3) , 荻野 尚3)

(1991年1月7日受付)

I.内容要旨
乳房温存療法における照射の意義を評価することを目的として,T1N0乳癌35例にβ-tronを用いて術前照射をおこない,その効果を検討した.照射方法は短期大量分割方式で25Gy (5Gy×5 ; TDF65) 6例, 30Gy (6Gy×5 ; TDF87) 4例, 40 (45) Gy (8Gy×5; TDF136~160) 25例であり,腫瘍を中心に直径4~6cmの範囲に照射した.原則として2~3週間後に非定型乳房切除術を施行した.照射の効果は臨床的(触診上の腫瘍の縮小率),病理組織学的(胃癌研究会組織学的効果判定基準)判定によっておこなった.通常の乳房温存療法におけるTDFに相当する短期分割線量25~30Gyでは51%以上の縮小率を示したものは6/10 (60%) にとどまり,病理組織学的には有効と判定されたものはなかった.しかし,線量40Gyでは臨床的に19/25 (76%) に有効例を認め,組織学的には,8/25 (32%) がGrade 2以上であった.しかし, intraductal spreadingの著明な部位への照射の効果は明らかではなかった.また非照射Stage I群と比較し,術前照射群においてはmitotic indexは有意に減少しており, histological gradeは高分化傾向を認めた.さらに照射群ではER (+) 20/25 (80%),PgR (+) 23/25 (92%) が多く,これらは照射の効果と考えられた.但し, c-erbB-2 (+) 例は照射群18/28 (64%),非照射群20/40 (50%) で両群間に差を認めなかった.以上の成績は,乳癌細胞の照射に対する多様な感受性と,照射例における予後因子c-erbB-2の重要性を示唆していた.また照射によって高分化型のER (+) の癌細胞が遺残する事実は,術後補助療法として内分泌療法の適応を示しているものと考えられた.

キーワード
乳房温存療法, 術前照射, 組織学的効果判定, estrogen receptor, c-erbB-2

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