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日外会誌. 90(11): 1855-1865, 1989


原著

食道壁層造影法の基礎的ならびに臨床的研究

横浜市立大学 医学部第1外科学教室(主任教授:松本昭彦)

赤池 信

(1988年10月29日受付)

I.内容要旨
食道癌の術前深達度診断に有用である食道壁層造影法について,基礎的,臨床的検討を行った.
実験結果から,注入造影剤としてはリピオドールウルトラフルイドが適しており,注入部位は,粘膜下層,筋層のいつれでも移行状態に差を認めなかった.移行経路は,組織間隙を移行していると考えられた.
臨床例は,1983年までの36例をretrospective studyの対象とし,1984年以降の28例をprospective studyの対象とした.食道バリウム造影,切除標本の軟線撮影,織学的所見にて検討した.組織学的検索には重クロム酸カリ/オスミウム混合液にて造影剤を染色後,HE染色を施行して鏡検した.造影剤は粘膜下層(sm層),筋間層(mp層),外膜層(a層)の3層を移行しており,その移行経路は,殆んどが組織間隙で,リンパ管ではなかった.また,深達度診断としては粘膜下層癌以上のものに対して適していた.造影剤が腫瘍の長軸に対して腫瘍辺縁から腫瘍下に移行する距離の割合を移行比として計測し,さらに,腫瘍最深部での仮定腫瘍縁から内腔突出部までの距離とa層の造影剤の最先進部での同様の距離の比を求め,これに移行比を乗じて断面比として計測した.この移行比と断面比から術前深達度分類を4群に分類し,診断基準を以下のごとくにした.
1)深達度A0(sm):sm層の造影剤の移行比100%,2)深達度A0(mp):a層の造影剤の移行比100%,3)深達度A1-2:a層の造影剤による断面比15%以上100%未満,4)深達度A3:a層の造影剤による断面比15%未満.
この診断基準によるprospective study 28例での術前診断と組織学的所見との正診率は,A0(sm):100%,A0(mp)75%,A1-2:91.7%,A3:80%で,全体では85.7%と良好な結果であった.また,特に組織学的深達度a3であった8例の術前診断を見ると全例A3であり,他臓器浸潤を良く表していた.

キーワード
食道壁層造影法, 食道癌, 術前深達度診断, 移行比, 断面比

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