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日外会誌. 89(12): 2019-2022, 1988
原著
高齢者弁膜症の外科治療の問題点
I.内容要旨1982年から1986年12月までの5年間に教室で経験した60歳以上の高齢者弁膜症54例57回の手術を対象とし,高齢者弁膜症外科治療の問題点について,60歳未満の若年者弁膜症(若年者群)60例と比較検討した.高齢者弁膜症(高齢者群)の弁病変は僧帽弁膜症22例,大動脈弁膜症23例,連合弁膜症12例で,行われた手術は大動脈弁置換術(AVR)23例,僧帽弁置換術(MVR)21例,AVR+MVR 4例,僧帽弁形成術(OMC,MVP)3例,MVR+大動脈弁形成術(AVP)2例,OMC+AVR 1例であった.その他,血栓化人工弁に対する血栓除去術2例,人工弁周囲逆流に対する修復を1例に行つた.術前検査では心,肺,肝機能に有意差を認めなかつたが,高齢者群に腎機能の低下と貧血が認められた.いずれも正常値範囲内の差であり,高齢者群が若年者群に比し,より重症とはいえなかつた.体外循環時間,大動脈遮断時間の術中因子には両群に有意差を認めなかつた.術後経過ではカテコラミンの使用頻度,平均投与時間ともに高齢者群において有意に多かつた.平均呼吸器使用時間も高齢者群において有意に長く,高齢者群では若年者群に比し,術後心,肺機能の低下と遅延がみられた.手術成績では病院死亡は若年者群ではなかつたが,高齢者群では7例にみられた.死因では心原性の死亡は1例のみで,他は術前からの他臓器障害の悪化,術前検査の不備,手術手技あるいは輸血によるものであつた.遠隔死亡は両群ともに1例に認めた.遠隔成績では,NYHA,CTRは両群ともに有意に改善し,高齢者群においても若年者群と同程度の回復が認められた.
弁膜症の手術適応については,高齢者弁膜症においても若年者と同様に考えてよく,内科治療により改善が望めないものでは積極的に外科治療を行うべきである.手術に際しては,高齢者弁膜症の特殊性を十分に理解して術中術後管理にあたる必要がある.
キーワード
高齢者弁膜症, LOS, 腎機能低下
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