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日外会誌. 89(11): 1822-1833, 1988


原著

広範囲肝切除術後の急性呼吸不全の実験的検討
閉塞性黄疸犬モデルを用いて

東京大学 医学部第1外科学教室(指導:森岡恭彦教授)

袖山 元秀

(昭和62年12月4日受付)

I.内容要旨
障害肝の肝切除術後にみられる急性呼吸不全は臨床上重要な課題であるが,その病態生理,発症機序は不明な点が多い.肝機能障害と呼吸機能障害の関連を肺水分量の増加の面からとらえ,以下の検討を行った.
肝障害モデルとして, 雑種成犬を開腹し総胆管を結紮切離して, 6週間飼育し閉塞性黄疸犬とした.
二重指示薬希釈法を用いて測定した肺血管外水分量 (EVLW: extra-vascular lung water)は,閉塞性黄疸犬において正常犬に比べ有意(p<0.05)に高値を示した.
70%肝切除術後4時間目から,デキストランー40液を負荷して肺動脈楔入圧(PWP)を段階的に上昇させ, EVLWを測定した結果, 一定のPWPの上昇に対するEVLWの増加は,黄疸肝切除群が黄疸sham手術群,非黄疸肝切除群に比べ有意に大きく, この群の肺血管透過性の亢進が示唆された.
本実験モデルにおける肺水腫はヒトのARDSに近似した病態と考えられるが,その発症機序には肝の網内系の機能低下によるいわゆるspillover現象と,補体活性化およびそれによる好中球の肺血管床への凝集沈着,凝固線溶系が亢進する過程で起こる血管内皮損傷が関与していると考えられた.
肝切除後の急性肺水腫は残存肝機能の低下が主因と考えられ,対策としては術前の正確な肝機能評価とそれに応じた切除範囲の決定が重要である.
Gabexate mesilateの術前からの投与は肺血管透過性の亢進を抑制し,術後急性肺水腫の予防に有効と考えられた.

キーワード
肝切除, 呼吸不全, 閉塞性黄疸, 肺血管透過性亢進, ARDS

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