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日外会誌. 89(8): 1181-1191, 1988


原著

胃癌における腫瘍関連抗原 CEA と CA19-9の末梢血中移行機序に関する臨床病理学的・免疫組織化学的研究

1) 神戸大学 医療技術短期大学部
2) 神戸大学 医学部第1外科

多淵 芳樹1) , 山口 浩之2) , 斉藤 洋一2)

(昭和62年10月8日受付)

I.内容要旨
胃癌53例の末梢血と腫瘍還流血中のCEAならびにCA19-9値と腫瘍の臨床病理学的・免疫組織化学的所見との関連性を検討して,これら腫瘍関連抗原の血中移行機序の解明を試み,次の通りの成績と結論を得た.
(1)5例のCEA・20例のCA19-9非産生癌では,末梢血と還流血のCEAとCA19-9値は全例正常域にあり,両静脈値に差を認めなかつた.(2)CEA産生癌48例のCEA平均値(ng/ml)と5ng/ml以上の陽性率は末梢血30.3・22.9%,還流血136.5・58.3%で,後者は前者よりも高値を示した.(3)CA19-9産生癌33例のCA19-9平均値(U/ml)と37U/ml以上の陽性率は末梢血91.5・33.3%,還流血76.4・33.3%と両静脈間に差を認めなかつた.(4)血中CEAの上昇と関連が認められた因子は腫瘍径・壁深達度・リンパ管侵襲・リンパ節転移・病期分類・CEA局在様式などであつたが,最も関連が深い因子は静脈侵襲であつた.静脈侵襲と前述の血中CEA上昇関連因子との間には関連が確認されたが,血中CEA上昇と関連がみられなかつた腫瘍の占居部位・CEA分布様式と静脈侵襲との間には関連性は認められなかつた.(5)血中CA19-9上昇と関連が認められた因子は血中CEA上昇関連因子とほぼ同様であつたが,最も関連が深い因子はリンパ管侵襲とリンパ節転移であつた.血中CA19-9上昇関連因子とリンパ管侵襲ならびにリンパ節転移との間には関連性が認められたが,血中CA19-9上昇と関連がなかつた腫瘍の占居部位・腹膜転移・肝転移・CA19-9の分布様式とリンパ管侵襲およびリンパ節転移との間には関連性はみられなかつた.
以上の成績より,CEAとCA19-9の血中上昇はCEAとCA19-9が腫瘍で産生されていることが前提条件であり,CEAは主として静脈内浸潤CEA産生癌細胞から還流静脈を介して経門脈経路で,CA19-9はリンパ行性の胸管経路で末梢血中に移行していると考えられる.CEAとCA19-9の血中上昇関連因子は,前者は静脈侵襲と・後者はリンパ管侵襲ないしリンパ節転移と関連することによつて,二次的にCEAとCA19-9の血中上昇に関与しているものと思われる.

キーワード
胃癌, Carcinoembryonic antigen (CEA), Carbohydrate antigen 19-9 (CA19-9), 還流静脈血, 免疫組織化学

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