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日外会誌. 89(6): 967-970, 1988


症例報告

外傷性 Subclavian Steal Syndrome の 1例

大阪大学 医学部救急医学教室

木下 順弘 , 岩井 敦志 , 阪本 敏久 , 横田 順一朗 , 杉本 寿 , 吉岡 敏治 , 杉本 侃

(昭和62年4月20日受付)

I.内容要旨
鈍的胸部外傷による胸腔内主要血管損傷は,それ自体が致命的であることが多く,大出血を来すことなく血管が閉塞することは稀である.特に鎖骨下動脈が起始部で閉塞し,いわゆる鎖骨下動脈盗流症候群と同様の血行動態を呈した報告例は,世界で12例目であり,本邦例はない.
症例は63歳男性で,重量物が胸郭の上にのし掛かる形で胸部を強く圧迫された.来院時より明らかに血圧の左右差を認め,左では微かに触知するも測定は不能であった.意識は清明で,神経学的異常は認めず,血管造影にて,左鎖骨下動脈が起始部より2cmで狭窄をきたしていることが明らかとなった.第2病日には,完全閉塞となり左上肢の血流は左椎骨動脈より逆行性に供給されていた.この血管損傷に対し,外科的処置を加えないまま1年間の経過観察を行ったが,血行の再開や,動脈瘤の形成をみておらず,患者は社会復帰している.動脈硬化性のSubclavian Steal Syndromeにみられ易い脳底動脈系の虚血症状は,経験されていない.

キーワード
鎖骨下動脈損傷, 胸部外傷, 血管閉塞

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