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日外会誌. 89(6): 822-833, 1988


原著

ラットを用いた実験潰瘍モデルにおよぼすドーパミン作動性物質の影響
-とくに潰瘍発生機序とドーパミン作動性機序について-

東海大学 医学部外科 (指導:三富利夫教授)

近藤 泰理

(昭和62年7月18日受付)

I.内容要旨
胃酸分泌および潰瘍の発生過程における交感神経系, とくにドーパミン作動性神経系の関与を解明する目的で, Wistar系雄性ラットのシステアミン潰瘍モデルに,ドーパミン単独あるいはドーパミンとドンペリドンの併用投与を行って胃酸分泌動態の検討を行った.実験に用いた179匹のうち90匹では迷切を2週間前に行っている.システアミンは400mg/kg 皮下投与,生食のみを投与した対照を除く138匹ではドーパミンの2μg/kg/min, 4μg/kg/min あるいは8μg/kg/min を20時間点滴静注,そのうち64匹にはドーパミンとともに, D2受容体拮抗剤としてのドンペリドンを2μg/kg/min 点滴静注した.その結果,非迷切ラットの胃酸分泌はドーパミン2μg/kg/min 投与で抑制され, ドーバミン8μg/kg/min 投与で亢進し,ドンペリドンの同時投与でいずれの作用も消失した.迷切ラットの胃酸分泌はドーパミン用量依存性に亢進が認められ, ドンペリドンの同時投与でその酸分泌反応が抑制されたことから,酸分泌抑制作用は迷走神経枝依存性であると思われたが,本来のドーパミン作動性機構によるものは胃酸分泌亢進作用であると考えられた.非迷切ラットの十二指腸の潰瘍指数は, ドーパミン低用量投与で抑制され, ドーパミン高用量投与で増強し, ドンペリドンの同時投与においても酸分泌動態と十二指腸潰瘍指数が平行関係を示したことと,胃の潰瘍指数がドーパミン用量依存性に増強し,ドンペリドン同時投与でドーバミン用量依存性に抑制されたことから,胃・十二指腸潰瘍発生機序においてドーパミン作動性機構の関与が考えられた.迷切下では十二指腸潰瘍の発生はすべて抑制され,システアミンによる十二指腸潰瘍の発生は,迷走神経を介した胃酸分泌に強く依存していることが考えられるが, 胃の潰瘍性病変は, ドーパミン用量依存性に酸分泌反応とほぼ平行して増強し, ドンペリドンを同時投与するとドーパミン用量依存性に酸分泌反応とほぼ平行して減弱を示したことから,胃潰瘍発生過程は十二指腸潰瘍発生過程よりもより強いドーパミン作動性機構の関与が考えられた.
以上のことから,システアミン潰瘍モデルにおよぼすドーパミンの効果はその用量によつて異なり,ドーパミン受容体拮抗剤によつて阻害されたことから,壁細胞膜にドーパミン受容体の存在が強く示唆された.

キーワード
ドーパミン, システアミン潰瘍, 迷切

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