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日外会誌. 89(4): 595-601, 1988


原著

移植肺のFlow-Resistance Relation
―肺高血圧症に対する片肺移植の有効性についての検討―

東京女子医科大学 日本心臓血圧研究所循環器外科 (主任:小柳仁教授)

江石 清行

(昭和62年5月11日受付)

I.内容要旨
肺移植適応疾患には,肺高血圧の合併を考慮する必要があり,また肺高血圧症に対する片肺移植の有効性を検討するには,移植肺の肺血管抵抗の変化が重要である.移植肺の循環系の性状を明かとする為に,移植肺10日目のFlow-Resistance Relationを調べた. 
体重12kg前後の雑種成犬28頭を用い,14回の左同種肺移植を行った.移植後10日目に正中切開を行い,上下大静脈より脱血し,ローラポンプにて奇静脈経由で右心房へ送血した. 
さらに右肺門部をクランプし,右肺への血行を遮断したあと,移植肺のFlow-Resistance Relation(0.3L/min~2.0L/min)を求めた.実験前に胸部X線撮影を行い,実験終了後,肺水分量の測定および病理学的検索を行った. 
14例中,6例が術後10日以内に死亡した.術後10日目に右肺を完全遮断し,Flow-Resistance Relationの検索が可能であった5例を移植成功群,右肺遮断後Flow-Resistance Relationの検索を行えなかつた3例は死亡例と共に移植不成功群とした.胸部X-Pにて含気量をみると,移植成功群では正常から軽度の低下が認められたのに対し,移植不成功群では顕著の低下を示した.病理所見をみると,移植成功群では正常ないし中等度肺炎,あるいは肺うっ血像にとどまるのに対し,移植不成功群では重症肺炎,肺うっ血,あるいは肺出血像を呈した.肺水分量は,コントロール群47.8±7.5g(mean±S.D.),移植成功群95.6±16.7g,移植不成功群211.0±89.6gであり,移植成功群がコントロール群の約2倍(p<0.001),移植不成功群が移植成功群の約2倍(p<0.02)であつた.しかしコントロール群と移植成功群の間には有意差を認めなかつた.Flow Resistance Relationをみると,両群とも流量が0.3L/minから1.4L/minあるいは1.6L/minまでは流量増加に伴い,抵抗は漸減し,それ以降はほぼ一定であり,両群の曲線間に有意差はなく,またいつれの流量においても有意差を認めなかつた. 
これらの結果より,術後の含気量低下を中等度に抑えられれば,片側移植肺の血管床は全肺血流を担う能力を正常肺と同様に維持しており,肺高血圧症の有効な治療法となると考えられた.

キーワード
肺高血圧症, 肺移植, 肺の Flow-Resistance Relation, Eisenmenger 症候群

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