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日外会誌. 89(3): 423-430, 1988


原著

円筒状バルーンカテーテルによる腹部内臓動脈瘤破裂の出血制御の実験的研究

東京慈恵会医科大学 第1外科

赤羽 紀武 , 氏家 久 , 梅沢 和正 , 三浦 金次 , 巷野 道雄 , 山本 敬雄 , 桜井 健司

(昭和62年3月20日受付)

I.内容要旨
腹部内臓血管の動脈瘤, ことに腹腔動脈の分枝や上腸間膜動脈に発生したものは明らかな症状を現さないため存在を知ることが難しく,ほとんどは破裂を合併してから救急で治療される.手術はこれら動脈瘤が解剖学的に複雑な位置にあるので出血源が判りにくく,多くの場合に止血の手段として大動脈遮断が行われる.しかも大きな後腹膜血腫や漏出する血液のために手術操作が遷延し,動脈瘤の処理に成功しても結局その高度の侵襲と失血により死の転帰をとるものが多い.この現状を打開するため,著者らが大動脈解離の治療の目的で開発した円筒状バルーンカテーテルを大動脈内に挿入して末梢への血流を途絶せずに分枝への血流だけを遮断する実験を行った.その結果,この円筒状バルーンは腹腔動脈,上腸間膜動脈の起始部で膨張させると,分枝血行を選択的に完全に閉鎖する役目をはたすことが示された.また開胸や横隔膜下での大動脈遮断に比較してこの手技は止血までの操作が短時間で, しかも少ない侵襲で施行が可能であることが示された. 4時間以内ではバルーンカテーテル留置による大動脈の壁の破裂と血栓閉塞は生じなかった.このバルーンにより部分的な狭窄が一時的に生じるが,末梢の血流血圧に有意の変化が生じないことはすでに証明されており,臨床使用上の問題はない.大動脈を遮断せずに末梢への血流を保ちつつ分枝の出血を制御する,この円筒状バルーンカテーテルの利点は大きく,心不全や腎障害などの合併症を心配せずに動脈瘤の処理や血行再建を余裕をもつて行うことが出来る.以上のことから著者らが独自に開発した円筒状バルーンカテーテルはabdominal apoplexyの治療手段として有用であり,救命率向上に寄与すると考えられる.

キーワード
腹部内臓動脈瘤, 動脈瘤破裂, abdominal apoplexy, 大動脈遮断, balloon catheter

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