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日外会誌. 89(3): 317-324, 1988


原著

肝の温熱療法の基礎的検討
―穿刺針型ヒーターによる加温法に関して―

東京大学 医学部第2外科 (主任:出月康夫教授)

針原 康

(昭和62年4月18日受付)

I.内容要旨
温熱療法は直接的な抗腫瘍効果と同時に放射線療法や化学療法との相乗効果もあり,切除不能肝癌に対する集学的治療法の一手段として有用と考えられる.穿刺針型ヒーターを腫瘍中心部に刺入して腫瘍のみを選択的に加温し,中心部には高熱による抗腫瘍効果を,また周囲には温熱療法効果を期待する組織内局所加温法に関して犬の肝臓を用いて基礎的な検討を加えた.
雑種成犬肝に穿刺針型ヒーターを刺入し加温した場合の正常肝組織,正常血流状態における温度分布を検討すると,加温時間や加温熱量を変化させても, ヒーターから離れるに従い急速に加温効果は減弱していた.このことは加温領域には限界があるが,腫瘍のみを選択的に加温でき周囲組織の障害を最小限に抑えられることを示していると考えられた. 50V10分(5208J)で加温した場合, 42℃以上の温度上昇の得られる有効加温領域は直径27mmであった.組織血流の加温効果に与える影響を検討するため肝動脈と門脈を単独あるいは同時に遮断して組織血流量と温度分布を調べたところ,正常血流状態(組織血流量88.1ml/min/100g)では有効加温体積が10.3cm3であったのに対し血流遮断時には24.4cm3であり2倍以上の差が認められ,組織血流の持つ熱拡散効果の大きなことが明らかとなった.温熱感受性については1週間後の組織所見の検討より正常肝組織は46℃ 5分間程度の加温で不可逆的な障害を受けることが明らかとなった.生化学検査ではGOT,LDH, CPKの上昇が認められた.加温による全身温の変化はなく,心拍数,血圧,血液ガス分析にも変化は認められなかった.
以上より穿刺針型ヒーターによる組織内局所加温法は選択的に腫瘍のみを加温でき,周囲組織や全身に与える影響の小さい有用な加温法であることが示唆された.

キーワード
穿刺針型ヒーター, 温熱療法, 肝腫瘍, 組織血流量, 温熱感受性

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