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日外会誌. 89(2): 215-226, 1988


原著

ブタを用いた同種同所性全肝移植に関する研究
―レシピエントの手術手技に関する検討―

東京大学 医学部第1外科(指導:森岡恭彦教授)

後藤 振一郎

(昭和62年3月24日受付)

I.内容要旨
侵襲が大きく,手技的にも複雑な肝移植手術に関し,大動脈遮断法と体外静脈バイパス法の比較を中心に, ミニブタを用いて実験的に検討した.
正常ミニブタで門脈と下大静脈を遮断すると,直後から循環動態が著明に悪化したが,両静脈の遮断の際に腹腔動脈直上の大動脈を遮断することで(大動脈遮断法),循環動態の悪化が軽減された.
全肝移植実験では,門脈と肝下部下大静脈の吻合にカフ法を用いれば,無肝期に大動脈遮断法を行つても,バイパス法を行っても24時間生存率に差はなく(各々65.4%,66.7%),移植後の血液生化学,凝固系指標の変化にも差はみられなかった.大動脈遮断法においては,遮断中は動脈圧が上昇し,遮断解除後に著しい血圧低下と代謝性アシドーシスが発生した. NaHCO3投与でアシドーシスは補正されたが,血圧低下を改善するには,急速な輸液,輸血が必要であった.このように大動脈遮断法は適切な全身管理を特に必要としたが,手技的には簡易であった.これに対し,バイパス法では循環動態は比較的安定していたが,バイパス設置は複雑な肝移植手術を一層複雑なものとした.また,術中,バイパスの血流確保にも注意が必要であつた.
カフ法を用いれば,熟練が必要とされる門脈と肝下部下大静脈吻合が簡易なものとなり,両者をカフ法で吻合することで, 24時間生存率が上昇した. しかし,カフ法による吻合部は慢性狭窄が起こることが判明した. これに対しては,新しく考案した方法(一時的カフ法)によりカフ法による血流再開の後にカフを除去したところ,慢性狭窄の問題は解決された.

キーワード
ブタ肝移植, 大動脈遮断, 静脈バイパス, カフ法, 肝移植手技

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