[書誌情報] [全文PDF] (2933KB) [会員限定・要二段階認証][検索結果へ戻る]

日外会誌. 89(1): 21-29, 1988


原著

食道癌術後合併症死を予測する生体防御指数 (HDI) の考案

大分医科大学 外科学第1講座(主任:小林迪夫教授)

斉藤 貴生 , 膳所 憲二 , 桑原 亮彦 , 平尾 悦郎 , 下田 勝広 , 川野 克則 , 小林 迪夫

(昭和61年12月27日受付)

I.内容要旨
食道癌患者における生体防御障害に基づく術後合併症死を術前に予測することを目的とし,食道癌患者の生体防御機能と術後合併症死の有無との関連から,多変量解析により,生体防御障害に基因する術後合併症死を判別する生体防御指数(Host defense index, HDI)の算出式を作成した.当教室で過去4年2カ月間に経験した食道癌患者77例のうちの58例について,生体防御機能を栄養,細胞性免疫,液性免疫,食細胞系,補体系,血清因子についての42項目で評価した.このうち,データー欠損のない32症例の21項目についての生体防御評価値を多変量解析の対象とした.食道癌切除またはバイパス手術後120日以内に発症した手術に基づく合併症による死亡を術後合併症死としたが,その例数は32例中10例であった.多変量解析の1つである判別分析により導き出されたHDIの算出式は,栄養,細胞性免疫,液性免疫,補体系,血清因子についての10項目で構成され,統計的にはHDI>-0.90の時に術後合併症死(-)を, HDI<-0.90の時に同(+)を予測した.この判定式での的中率は32症例において87.5%であったが, Kwashiorkor型様栄養障害を有する例はこの式には当てはまらなかつた.HDIは,栄養障害に基づく手術危険度をあらわすPNIやNAIとは相関せず,逆に, PNIやNAIにより生体防御障害に基づく術後合併症死を予測するのも困難であった.また,術後合併症死の可能性の程度を重視した臨床上の判定基準として, HDI≧0:その可能性が低い,-1.80<HDI<0:中等度の可能性がある, HDI≧-1.80:可能性が高いを設け, これを用いた食道癌切除手術の適応基準を設定した.以上, HDIは食道癌患者の生体防御障害に基づく術後合併症死を予測する指標として有用であり,生体防御面からみた食道癌切除手術の適応を決定する尺度になりうると考えられた.

キーワード
食道癌, 術後合併症死の予測, 生体防御指数, 手術適応, 免疫と栄養

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。