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日外会誌. 88(11): 1536-1541, 1987


原著

外科手術患者における血清鉄,フェリチン,トランスフェリンの術後変動

熊本大学 医学部第2外科

広田 昌彦 , 酒本 喜与志 , 山口 康雄 , 片渕 茂 , 池井 聰 , 守 且孝 , 赤木 正信

(昭和61年12月24日受付)

I.内容要旨
近年,鉄,及びその輸送タンパク,貯蔵タンパクであるトランスフェリン,フェリチンの細胞増殖との関連性について関心が寄せられている.特に鉄はチトクロームをはじめとして各種の酸化還元酵素,その他の鉄関連酵素の活性発現に要求され,細胞増殖に密接にかかわつている.
これまで術創修復に関しては,感染,肝障害や糖尿病などの合併症の有無,アルブミン,フィブリノーゲン,ビタミンあるいは酸素などの関与に対しては注目されてきたが,鉄,トランスフェリン,フェリチンの関与に関してはほとんど関心が払われなかつた.
開腹手術後には術創修復のため細胞の増殖が活発におこつていると考えられ,術創修復に鉄,トランスフェリン及びフェリチンが関与していることが考えられる.そこで開腹手術後,術創修復に鉄,トランスフェリン,フェリチンが関与するのかどうかを調べる目的で,術後の血清鉄,トランスフェリン,フェリチン値の動態を検索した.
血清鉄は術直後より著明に低下した.その現象は手術侵襲の大きな群により顕著にみられ,術中出血量,輸血量との間には相関は認められなかつた.また,トランスフェリンは術後低下し,フェリチンは術後上昇した.トランスフェリンの低下はRapid Turnover Proteinとしての現象と考えられるが,血清鉄の低下,及びフェリチンの上昇には術創の修復としての細胞増殖の影響が示唆された.
以上より,術前,術後管理を鉄代謝をも考慮して行う必要があると考えられた.

キーワード
血清鉄, トランスフェリン, フェリチン, 細胞増殖, 創傷治癒

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