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日外会誌. 88(6): 779-784, 1987
症例報告
人工弁置換術後の一般外科手術
特に術前術後の抗凝固療法について
I.内容要旨人工弁置換術後の抗凝固療法中に開腹手術を行つた7例の経験をもとに術前,術後の抗凝固療法について検討を加えた.
症例は46歳から61歳で,男4例,女3例であつた.心臓弁膜症に対して施行された手術はMVR 3例,AVR 3例,MVR+AVR 1例で,使用された人工弁はMVRの1例が生体弁であつたが,他の6例では機械弁であつた.人工弁置換術から開腹手術までの期間は2ヵ月から8年2ヵ月で,開腹手術の内訳は胆嚢摘出術5例,胃切除術1例,腹部大動脈瘤切除人工血管移植術1例であつた.
全例ワーファリンによる抗凝固療法が行われており,3例では血小板凝集抑制剤が併用されていた.術前,術後の抗凝固療法では手術予定日の4~15日前からワーファリンの減量を開始し,漸減的に投与を中止し,トロンボテスト50%以上で手術を行つた.ワーファリンの減量に当たり,生体弁を使用した1例と術前トロンボテストが50%以下を示した1例を除く5例において,トロンボテストが50%を越えた時点でヘパリンの持続静脈内投与を開始し,手術前4~12時間まで維持した.術後では,6例に観察室収容後2~6時間でヘパリン投与を開始した.ヘパリン使用量はACTで130~150秒に調節した.経口摂取開始後ワーファリンによりトロンボテストが40%以下となつたのち,ヘパリン投与を中止した.
血栓塞栓症,弁機能不全の発生はなかつたが,2例に多量の創出血を認め輸血が必要であつた.この2例のACTは,いずれも常に160秒以上を示していた.術中術後の出血を考慮すれば,ヘパリンは術前6~8時間に中止し,術後は12~24時間に投与を再開するのが安全で,その使用量はACTで130~150秒が適当であろう.今回用いた方法は抗凝固剤が中断される時間を短縮でき,人工弁置換患者の外科治療の術前術後の抗凝固療法として安全で,有効と思われる.
キーワード
人工弁置換術後, 抗凝固療法, 一般外科手術
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