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日外会誌. 88(6): 773-778, 1987


症例報告

膵頭部 mixed ductal and acinar cancer の1治験例

1) 自治医科大学 消化器外科
2) 自治医科大学 病院病理
3) 都立駒込病院 病理

稲葉 直樹1) , 笠原 小五郎1) , 柏井 昭良1) , 金澤 暁太郎1) , 山口 隆子2) , 斎藤 健2) , 神沢 照美3)

(昭和61年7月4日受付)

I.内容要旨
合併型膵癌は極めて稀であるが,我々は膵頭部の膵管癌と腺房細胞癌の合併型,すなわちmixed ductal and acinar cell cancerの1例を治療する機会を得たので報告する.本症例は,検索し得た限り世界で第7例目であり,他の6例は外科的に治療されることなく,剖検による報告である. 
症例は63歳男性で,突然の上腹部痛及び吐き気,呕吐で発症した.入院時,右季肋部に抵抗を触知するのみで黄疸も認めなかつた.超音波検査では,膵頭部にエコー強度の高い球形の腫瘤を認め,中心に不整形の嚢胞部分を有し,これが尾側の拡張せる主膵管と交通していた.CTスキャンでは膵頭部に球形の腫瘤を認め,内部に不整なlow density areaを呈していた.腹腔動脈造影では,超音波検査,CTと同様に膵頭部にhypervascularな腫瘤と内部の不整な透亮像を認め,静脈相で門脈が腫瘤に接し左方に偏位圧排されていた.超音波下の穿刺吸引細胞診で悪性細胞が得られ,手術の適応となつた.開腹時,膵頭部腫瘤は門脈より容易に剥離できたので,膵頭十二指腸切除を施行した.また,肝右葉に2コの転移巣を認めたので,4ヵ月後に再開腹し肝右葉切除術を追加した. 
切除標本で,膵頭部の腫瘤は6.5cm径で,中心部は変性壊死をきたし尾側の主膵管と交通していた.組織学的には,円形及び楕円形の核を有し細胞質に富む腫瘍細胞が細い線維性結合織に囲まれ細葉状に配列し腺房に類似する部と,明るく豊かな細胞質を持ち核の偏在したsignet ring様な細胞からなる部が混在した.さらに,組織化学及び免疫組織化学的検討により,mixed ductal and acinar cell cancerと診断された.術後3年3ヵ月の現在,再発の徴候もなく健在である.

キーワード
合併型膵癌, 免疫組織化学, 画像診断

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