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日外会誌. 88(6): 680-685, 1987


原著

近赤外分光法を用いる無侵襲生体計測

旭川医科大学 第1外科

田村 正秀 , 橘 秀光 , 高木 勇 , 久保 良彦 , 鮫島 夏樹

(昭和61年8月8日受付)

I.内容要旨
近赤外光は600~1,200nmの波長域で良好な生体組織透過性を持っている.著者らは,この近赤外光を用いた近赤外生体組織分光装置を試作し脳組織酸素代謝の無侵襲測定を試みており概要を報告した.脳組織中のヘモグロビン(Hb),チトクローム酸化酵素(Cyt. oxidase)などが酸素濃度に対応して特徴的な吸収変化を示す事実を利用したものである. 
ラット頭蓋に近赤外光を照射し頭蓋透過光を著者らの生体分光器によりスペクトル分析および二波長吸収差変化を測定した.脳スペクトルの基礎的検討から脳Hbの酸素化脱酸素化を700~805nm,脳Cyt. oxidase(aa3)の酸化還元レドックスを830~805nmの二波長組合せにより,また脳血液量の変化を波長805nmの吸収変化から求めた. 
①吸入気酸素濃度を変化させた際の脳Hbの酸素化レベルを測定し同時に内頚静脈血のガス分析を施行した結果,脳Hbの酸素化レベルは脳内静脈血のそれをみている事が判明した.②脳Cyt. oxidaseは酸素濃度15%以下で還元されミトコンドリア(Mt)の呼吸速度の低下が示唆された.③脳血液量は低酸素負荷で著明に増大した.④脱血性ショックでは脳Hbは強く脱酸素化され,Cyt. oxidaseは還元型が急増し脳組織は低酸素状態を呈した.⑤Ca++拮抗剤の投与は脳Hbの酸素化上昇を示し脳酸素代謝を好転させる.⑥成人の前額部に送受光の2本のライトガイドを装着し反射光の分光計測を試みた.1分間の過呼吸により脳Hbの脱酸素化,Cyt. aa3の還元,脳血液量の減少が観察された. 
結語.ここで紹介した無侵襲光学計測法は新生児の脳酸素モニターなど幅広い臨床応用が考えられ今後の発展が期待される.

キーワード
brain oxygen metabolism, infrared spectroscopy, Hemoglobin oxygenation, Cyt. aa3 redox state

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