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日外会誌. 88(2): 222-226, 1987


症例報告

膵頭十二指腸切除術にて切除しえた後腹膜リンパ管腫の 1 例

国立療養所中部病院 外科

黒川 善栄 , 神谷 順一 , 桐岡 智二 , 梶田 正文 , 前田 正信 , 中村 達雄 , 秋山 三郎

(昭和61年4月7日受付)

I.内容要旨
リンパ管腫は身体各部に発生するが,一番の好発部位は頚部であり,後腹膜のリンパ管腫は比較的稀である.今回我々は,膵頭部腫瘍と鑑別が困難であつた後腹膜リンパ管腫の1切除例を経験したので報告する.
症例は44歳,男性.主訴は発熱,右季肋部痛.現病歴は昭和60年4月7日仕事中急に悪寒発熱をきたしたため当科受診,入院した.
腹部エコー像,CT像で膵頭部に一致して辺縁が不整で,嚢胞性の部分と充実性の部分が混在した腫瘤性病変を認めた.腹腔動脈造影は膵頭部アーケードの左方への圧排,低緊張性十二指腸造影では球部と十二指腸下行部の左方への圧排と狭小像を示した.膵管造影,胆道造影では特に異常所見を示さなかつた.
以上の検査所見より膵頭部腫瘍,または後腹膜腫瘍の診断で5月16日に手術を施行した.膵頭部後面より肝十二指腸靱帯後面にかけて弾性硬で手拳大の腫瘤を触知した.この腫瘤は膵頭部後面,十二指腸下行部に強固に癒着していたため腫瘤を含め膵頭十二指腸切除術を施行した.術後の病理学的検索にて後腹膜リンパ管腫と診断された.なお患者は現在元気に社会復帰している.
リンパ管腫のなかで嚢胞状で膨張性の発育形式をとるものは外科的に切除しやすいが,海綿状で浸潤性の発育形式をとるものは完全に切除する事が困難なようである.しかし再発や悪性化したという報告もあり,リンパ管腫は外科的に完全に切除しなければならないと思われる.
本例は浸潤性の発育形式をとるリンパ管腫であり,十二指腸固有筋層内まで浸潤していた.したがつて組織学的にも膵頭十二指腸切除術の適応となる症例であつた.

キーワード
後腹膜リンパ管腫, 膵頭十二指腸切除術

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