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日外会誌. 87(3): 278-286, 1986


原著

Adriamycin による腹腔滲出細胞(主にマクロファージ)の抗腫瘍性について

岡山大学 医学部第1外科(主任教授:折田薫三)

森岡 栄

(昭和60年6月12日受付)

I.内容要旨
C3H/HeマウスにAdriamycin(ADM)を腹腔内投与(i. p.)し,その腹腔滲出細胞(PEC)に抗腫瘍効果を認めたので報告する.またその作用機作についても検討した.ADM 0.1, 1, 10mg/kg i.p.後のPECにはin vitroにおいて,ADM容量依存性に,Ehrlich株化細胞JTC-11に対し,増殖抑制活性・ 殺細胞活性がみられた.この活性は,プラスチック附着細胞に強くみられ,カラゲナン前投与にて減弱消失した.PECを超音波破壊処理した上清中にはADMが微量存在し,JTC-11に対し増殖抑制活性はみられたが,殺細胞活性は示さなかつた.また,ADM投与後のPECを用いた腫瘍中和試験(Winn assay)では,MH-134肝癌細胞及び,Ehrlich細胞に対し著明な抗腫瘍効果がみられた.さらに,マウスにEhrlich細胞を腹腔内移植し,翌日ADMをi.p.すると,ADM非投与群に比し,生存期間の延長がみられたが,あらかじめカラゲナンを前投与しておくと,この効果は消失した.蛍光顕微鏡にて,ADM投与後PECは,細胞質にADMと思われる黄色の蛍光物質を保有していることが観察され,さらにJTC-11と混合培養すると,標的細胞の核にも同様の蛍光物質が観察された.以上より,ADM i.p.投与の場合,ADMの抗腫瘍効果には,腫瘍に対する直接効果の他に,宿主の免疫介在性,すなわち腹腔マクロファージ(Mφ)を介在する抗腫瘍効果があり,その効果は,Mφが貧食したADMを標的細胞内へ転送することによると考えられた.

キーワード
Adriamycin, 腹腔滲出細胞, 腹腔マクロファージ, 抗腫瘍効果

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