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日外会誌. 87(2): 162-171, 1986


原著

新生児高カロリー輸液における黄疸発生
-過去12年間における教室例の臨床的検討-

*) 大阪大学 医学部小児外科
**) 香川医科大学 第2外科

窪田 昭男*) , 根津 理一郎*) , 鎌田 振吉*) , 板倉 丈夫*) , 高木 洋治*) , 岡田 正*) , 池田 義和**)

(昭和60年5月8日受付)

I.内容要旨
新生児期における高力ロリー輸液(TPN)に伴う黄疸発生は今尚未解決の大きな問題である.過去12年間に教室で経験した新生児TPN施行症例77例を対象に,新生児期TPNに伴う黄疸発生の要因を明らかにすべく臨床分析を行なつた.その結果,77例中44例(57%)に黄疸発生が認められた.原疾患と黄疸発生率についてみると,小腸の明らかな通過障害あるいは走行異常を伴つた疾患ではこれら以外の疾患に比し,有意に黄疸発生率が高かつた.感染症は77例中32例(42%)に認められ,これらの症例の黄疸発生率は88%で,感染症非合併例の36%に比し有意に高率であつた.次に感染症の合併以外の因子について検討した.在胎週数及び生下時体重と黄疸発生率の間に有意な相関は認められなかつた.TPN開始時日齢別による黄疸発生率では,日齢が早い程発生率が高い傾向が見られた.TPN施行期間及び絶食期間は,生後1ヵ月間で見る限り黄疸発生率と明らかな相関を示さなかつた.投与熱量との関係を見ると110kcal/kg/日以上投与群はそれ以下の群に比し有意に黄疸発生率が高かつた.投与アミノ酸量と黄疸発生率との間に明らかな相関は認められなかつた.
生後2ヵ月以内に行なつた生検肝の組織学的検討では,ほぼ共通してグ鞘への細胞浸潤,細胆管増生,肝細胞の膨化,肝細胞,細胆管内胆汁色素沈着が種々の程度に認められた.剖検肝では,更に肝細胞の空胞形成,脂肪変性,巨細胞化及びグ鞘における高度の線維化,細胞浸潤が認められた.これらの所見には顕性あるいは不顕性感染の影響が大きいと考えられた.以上より,新生児期TPNに伴う黄疸発生には原疾患として小腸の通過障害の存在,感染症の合併及び投与熱量の過剰が大きく関与していると考えられた.

キーワード
黄疸, 胆汁うつ滞, 高カロリー輸液, 完全静脈栄養

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